――一週間の契約

 

5日目 転機 09――ホワイト

もう、ブラックがこの家に来て…5日を迎えようとしていた。
5日…もう5日。

昨日はトランプで1日が終わった。
神経衰弱って…あんなに楽しいものだったのね。
1人でやるのと2人でやるのとでは、全然違うわ…

「…ブラック」
「…何だ?」
「美味しい…?」
食事を食べているブラックに問いかける。
私の料理は、私以外の人は殆ど食べた事が無いから。
おじいさまが食べてくれた事はあるけれど、それ以外の人に食べてもらった事が無い。

「…ああ」
「本当?」
「本当だ」
…よかった。
ブラックは何も言わずに食事をとるから、ひょっとしたら美味しくないのかな…とも思っていたから。


「…今日はどうする?」
「そうね…何でも構わないわ」
「じゃあ…俺が何か教えてやる」
「何か…って?」
「トランプ」

…?
トランプ…は、神経衰弱しか…わからないけれど…

「だから…神経衰弱しか知らねぇんだろ?」
頷く。
「他に何かできた方が楽しいだろーが」
「…神経衰弱以外に…何か知っているの?」
「ああ」
ぶっきらぼうに言うブラック。
何だか妙に嬉しくなってきて…

「…ありがとう。そうするわ」
「…別に。ババ抜き位なら教えてやるよ」

こうして、また1日が始まった。


5日目 転機 10――ブラック

トランプを教えてやろうと考えついたのは、本当に何となくだった。
ただ、今日を入れてあと3日の契約の中で何もしないのもどうかと思うし。
コイツはあまり人と遊んだ経験が無さそうだったからである。

「…で、まず同じ数字のを捨てていくんだ」
随分数が減ったが二人のババ抜きはそれでも数が多かった。
ジョーカーは俺の所にある。

「…それで、どうするの?」
「そしたらまず俺の方から一枚引くんだ…同じ数字の組み合わせがあったら捨てていく。ジョーカーは引かないようにな…残った奴が負けだ」
…ホワイトは呑み込みが早い。
ババ抜きは割とスムーズに進んだ。

…しかし、コイツは何故ジョーカーを引かないんだ?

「…上がりね」
「げ…」
ホワイトはあっさり上がってみせた。
俺の所にはしっかりジョーカーが居座っている。

「…もう一回だ」
いくら強いと言っても初回で負けるのは悔しすぎる。
「良いけど…?」
俺はまた適当に切って配ってみせる。
「じゃあ…ブラックからどうぞ」
「ああ…」
…よし、ジョーカーは無い。
俺は相手の所に手を伸ばす…が。
「…げ…」
俺が引いたのはジョーカー。
…いくら何でもあり得ねぇだろコレは…

…結局、その試合もホワイトの圧勝だった。

「お前、初めてじゃねぇだろ」
「いいえ、初めてだけど…?」
…確かに、コイツの言ってることは嘘じゃなさそうだが…
悪魔仲間とよくモノを賭けてやってる身としては嘘であってほしかった。

「…ブラックは…よくやるの?」
「ああ…悪魔ってのはいつ召還されるかわかんねぇ割に暇だからな…悪魔仲間と」
「…楽しそうね」
「まあな…お前なんて混ぜたら勝ちが全部お前の所に行きそうだけど…な」

ホワイトはゆっくり話し出した。
「私は…よく、おじいさまとやったの」
「ババ抜きをか?」
「いいえ、神経衰弱を」
だろうな…

「おじいさまは…1年前に亡くなったけれど、大好きだったわ」
その口元から笑みが現れる。

「…やるか?」
「え…?」
「神経衰弱…」
…ホワイトは微笑んで頷いた…その時…だった。

「…!?」
「ホワイト、危ねぇっ!!」
…ドスッ

「…ッ…」
「ブラック!?」

俺の背中には…真っ白な矢が、しっかりと突き刺さっていたのだった。

* *

矢の突き刺さった俺の背中からは、血が少しずつ伝わっていた。
「ブラック!?」
「大丈夫だ…人間の矢にやられるほど、柔じゃねぇよ」
…殺気はもうしない。
どうやら逃げられたようだ。

「傷…!」
「だから大丈夫だって…コレ位じゃ死なねぇよ」
自分の背中から矢を抜き取って、その場に腰掛けた。
悪魔の生命回復力なら放っておけば明日には傷は消えるはずだ。

「…ホワイト?」

ホワイトは…泣いていた。
俺の胸の中で、服をつかんで泣きじゃくっていた。

「…だから俺は…」
「…悔しいのよ…」
「…?」
ホワイトは涙を流しながら言う。

「私は…私は、自分の身はともかく大切な人を…誰も守ることができないんだもの…っ…こんな力があっても…私は…災いを呼び寄せることしか…できない…っ」
恐らく…今まで我慢していたんだろう。
俺が口を開くまで、ホワイトは泣きじゃくっていた。
「馬鹿…だな、お前」
「…ぇ…」
「俺は…『お前を』守るために召還されたんだろう?」
「…ええ」
「だから、お前は…黙って俺に守られていれば良いんだ…お前は…俺を守る必要なんて無い」

…それを言うと、ホワイトは涙目で微笑んで抱きついてきた。
「…主人、だから?」
「ああ…ンな危なっかしい主人、放っておけねぇよ」

「…じゃあ…あと2日…しっかり…私を守って」
「…ああ…望むところだ」

いつしか、ホワイトは…俺の胸の中で、眠りについていた。