――一週間の契約

 

6日目 大切な人 11――ホワイト

気づいたら…私はベッドに寝かされていた。
「…ブラック…?」
「…此処にいる」
ブラックはベッドに寄りかかって座っていた。
傷は…大丈夫なのかしら…

「…傷は…平気?」
「ああ…もう平気だ」
「そう…良かった」

彼はこちらをチラと見ると
「…今日は…」
「聞かないの?昨日私が言ったこと…」

ブラックは言いづらそうにこう言った。
「別に…お前が言いたくないんなら無理には聞かねぇよ」
「…」
驚いた…すぐに聞いてくると思ったのに。

「…ブラック」
「ん…?」
「聞いてほしいの…私の話を」

…ブラックには話しても良い…話さなくちゃ駄目。
何故か…そう思って、私は話し始めた。


* *


「私は…村で生まれたの。生まれつき特殊な能力があったわ」
ブラックはベッドの前で聞いている。
真剣な眼差しで。

「…魔力も人並みはずれてあったし、少しだけど先読みもできた…人の殺気も人一倍感じていたから、村の人たちはおろか私を産んだ両親までもが私を疎んだわ」

…少しだけ、胸が痛む。

「だから…私は此処…祖父のところに引き取られたわ。私の力は…祖父から受け継いだものだったらしいから…」
おじいさま…とても優しかった、私のおじいさま。

ブラックは落ち着き払っている。
…まだ、これ以上は話すわけにはいかないのだけれども。

「…だったら、何で災いを呼び寄せるなんて言ったんだ?」
「おじいさまは…私を庇って亡くなったのよ…昨日みたいに私を暗殺しにきた村の刺客にね」



「…だったら、何で俺の召還期間が一週間しかねぇんだ?お前の魔力なら何ヶ月だって召還していても大丈夫だろ?」
「それは…いずれわかるわ」
今は…こう言っておくしかなかった。

「…わかった」
ブラックは立ち上がると、ぽんと私の頭を撫でた。

「…よく話したな」

一言だけ言って背を向けてしまったから、顔は見えなかったけれど…
どこか、暖かかった。


6日目 大切な人 12――ブラック

ホワイトが、自分から自身のことを話した。
俺はそんな話を安心して託すことのできる相手じゃねぇと思うのだが…
大体が予想していた内容だったが、小さな少女にしてみればどんなに辛いことだったか。

昼間は幸い何も起こらなかった。
ホワイトの案で神経衰弱をしながら普通に時間を潰す。

…いつの間にか、それで暇が潰せている自分に気づいた。

…そして…今は夜。
もう明日…明日で、契約が切れる。

「…ブラック、綺麗ね…星…」
ホワイトはふとこちらを見る。
「こうして、夜…ゆっくりと星を眺めるの、私は大好き」

…そう言って微笑むが、その微笑みは…どこか儚げだった。

「…俺も嫌いじゃねぇよ…星…」
「…良かったわ…嫌いじゃないのなら」
ホワイトは再び窓から外を見上げる。

「…明日で最後ね」
「ああ…」
「こんな子供のお守りから解放されて嬉しい?」
「…ま…子供のお守りだったのは認めるが…そんじょそこらの子供より手が掛からなくて全然楽しめたぜ?」
そう言うとホワイトはふわっと笑ってベッドに腰掛けている俺にもたれ掛かってきた。

「私も…この一週間…楽しかったわ…とても…きっと、私の今までの人生の中で一番…」

ホワイトはしばらくそのままだったが、ふと口を開く。

「…ブラック…お願いがあるの」
「…何だ?」
「明日…行きたいところがあるのよ…そこに着くまで、何としてでも…私を守って」
…ホワイトの顔は、真剣そのものだった。

「…ああ…わかった」
「…ありがとう…」

ホワイトは…そう言うと、毛布の中に潜った。
「…おやすみなさい」
「ああ…おやすみ」
額をそっと撫でてやる。
俺はコイツに対しては…厳しくすることができない。
それは…ずっとわかっていたことだったのだが。

そして明日…
明日でホワイトとの生活が終わる。
それは何やら妙にあっけない感じがして…
世間じゃこういうのを、「寂しい」って言うんだろうな。

…そして、運命の明日が始まる…