バカップルな二人のお題 配布元は此方




01. 何度も言わせる惚れ台詞


 じりじりじり、セミの鳴き声が絶えず響く8月頭。
 ひんやりと効いた冷房が、汗を静かに乾かしていく。

「――晴架」

 ベッドの中で、秋草は小さくくぐもった声を上げた。

「何だ?」

 晴架はその横で小さく、言葉を返す。
 シングルベッドは、矢張りちょっと狭い。
 クーラーに中ったか、若干声が掠れていた。

「…愛してる」

 僅か、上目で見上げ紡いだその言葉ははっきりと、意志の強いものだった。
 不覚にも、一瞬士気を削がれる。

「…」

「返してくれないのか?」

「何度も言った気がするんだけど」

 秋草は、俯くと晴架の胸元に額を押し当てる。


「――聴きたい」


 その言葉が、堪らない。
 焦らすことなんて、この言葉を前に考えろという方が無理なんだ。


「…愛してるよ、秋草」


 言葉が出てくるのは、ほんの一瞬。
 直後に押し寄せてくるのは、羞恥心の波だけれども。



 何度だって言ってやるさ、御前が其れを望むなら。




02. 栄養補給の手段は…



「………、足りたか?」
「何がだ」
「色々と。溜まってたンじゃねぇのか?」

 ベッドの縁に腰掛けた晴架がにやり、笑みを零す。
 ぼか、と、途端背中に衝撃が走った。

「痛ッ…」
「…この不届き者が」

 口を尖らせて毛布を被る。

「…おーい、秋草。そろそろ朝飯にしようと思うんだけど」
「ああ…」
「…そのまま不貞腐れてると、ウィダー流し込むぞ…っ痛!」

 ひょいと毛布をめくって覗き込むと、そのまま頭に拳が飛んだ。


 ひとまず、朝食は何か作ることになりそうである。
 晴架は冗談だっつの、と笑うと部屋を出て行った。





03. 痛い所はキスで消毒


「…秋草、そろそろ起きてこねぇと。軽くだけど飯作ってきたぞ」
「わかってる…もう少し待ってくれ」

 思えば、前もこうだった。
 前回に比べれば些か痛みは減った気がしなくも無いけれども、其れでも一夜明けの朝というのは辛い。


「…どっか痛ぇとこあるのか?」
「五月蝿い、馬鹿者」

 晴架が身を乗り出すと、秋草は吐き捨てるように一言呟いた。
 其れはやや、照れ隠しのつもりであったのだけれども。

「――どれ」

 不意に、晴架が身を乗り出した。
 秋草は思わず身構えるが、気付いたときには毛布は既に剥がされていた。

「………ッ」
「…さ、身体に聞いてみようか」
「馬鹿者、今何時だと…!」
「は?俺、夕べどっか身体に傷つけたかなーって思ってちょっと調べようと思っただけだけど」
晴架はからかうように言えば、クククと笑みを零した。

 秋草は顔を真っ赤にし思わず手が上がる。
 晴架ははし、とその手を掴んで――

 ――舐めた。

「ッ!?晴架!?」
「…少し大人しくしてろよ」
に、と口角が持ち上がる。


 首筋に付いた、赤い痕。
 その上から、もう一度――優しく、口付けた。


「痛いのは何処だ?」
「…」
「答えねぇと、力ずくで調べるぞ?」

「…此処だ、馬鹿者」

 秋草は顔を出すと、ふわりとその唇に自分の其れを重ねた。


「………、起きればいいんだろう」
「…、ああ」

 ひるんだのは、たった一瞬。
 秋草はふん、と後ろを向けば軽く身支度を整えて起き上がった。






04. 1ミリの隙間も空けたくなくて



 気付いたら、眠りに落ちていた。
 いつの間に眠ってしまったのだろう、と。全身は汗だくで、それでいて毛布もまともに掛かっていなかった。

 冷房のリモコンを枕元で探り当てれば、それだけスイッチを入れる。

 其処で初めて気が付いた。
 リモコンを取る為に伸ばした手の、もう片方の俺の手が握っていたものが。

 その、白い腕だった。

 自分の触っているところだけが赤くなっているのを見ると、
 思わず一瞬手を離しかける――が、直ぐにまた握りなおした。

 自分と相手の間を一瞬掠めた冷風が、妙に冷たく感じたのだった。

「………離すもんか」

 聞こえてなんて、いない筈。
 これは、俺一人の勝手な我儘。

 だけど、今はまだ、其れが叶うと信じていても構わないよな。


 この手を離したら、何処かへ行ってしまいそうな気がした。





05. 口移しなんて当たり前?


「…晴架、さっきから口の中に何入ってるんだ?」
「のど飴」
朝食も終え、秋草が不意に呟いた。

「この部屋、乾燥してるからな」
「ああ…そうか、冷房がついてるから…」
その声も、若干掠れている。
 秋草は軽く咳払いすると、晴架は何かを思いついたようににぃ、と口角を持ち上げた。

「――秋草、ちょっと」
「何?だ――…ッ!?」
不意に、重なる唇。
 一瞬では終わらず、そっと晴架の舌先が秋草の唇をを開かせる。
 その動きに沿って、そっと口が開いたところに――

 小さく、異物感が口内に侵入した。
 と、唇がそっと離れる。

「…なっ、んのつもりだ…晴架…!」
「何って、のど飴。…これ、残りの一個だったんだよなぁ」
呟くと、にやりと笑う。秋草は流石に頭を抱えた。
 口の中に、胸中とは裏腹に爽やかなミントの味が広がる。

「…御前という奴は…」
「何だ?」
「…本っ当に、如何しようもないろくでなしだな…」
その表情に、笑みが零れる。

「…悪かったな、ろくでなしで」
「貶してるわけじゃないことぐらい…」
「わかってる、当然だろ」
と、返せば再び――その唇が、塞がれた。
 軽く触れるだけ、の其れだけれども。

「――今、また何か…」
「今の?ああ、媚薬っつー奴か?この前通販で買ったんだが――」
「な…っ!」
「嘘だよ、ただのサプリメントだって」
ケラケラと笑い声が響く。
 秋草は眉根を寄せると再び晴架を殴る。

「痛ぇ!…御前恋人相手にもーちょい優しく出来ねぇのかよ」
「五月蝿い、この戯け者が」
そう言うと、秋草はふっと晴架の唇を己の唇で奪い塞いだ。

 何度口付けを交わしたって足りやしない。
 何度口移しで愛を伝えたって足りやしない。


 其れでも、伝えきらないから、また唇を重ねるんだ。


「…秋草」

「何だ?」

「愛してる」


 言葉だけだと、伝え切らない想いがある。



あとがき

いつもいつも本当にお世話になっている真故様と秋草君に、感謝の意を込めて。
大好きです。大好きなんです。
…すみません(土下座/…)

一晩明かして寝落ちなんてやらかしたり、常に愛が空回っていて本当にいつも申し訳ない。
もう徹夜はやめにします。でもまた遊んでやってください(…)

晴架ともどもどうしようもないCとLですが、これからもよろしくお願い致します。
本っ当、大好きです。


あああそれにしてももう既に書き直したい(…)
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