時は既に朝の11時。
晴架はGW中限定で設定してある携帯電話のバイブ音で目が覚めた。
「――…ン、…ァアア」
晴架はのそり、と起き上がると思い切り欠伸をする。
其処は海岸通の小さなコテージ。
何となく見慣れない景色。だけれども、此処は妙に落ち着ける。
1人きりで休息したいときは晴架は決まって此処を利用していた。
が。
「――…11時…か……」
携帯電話で時間を確認、すればそっとベッドから降りる。
小さなシングルベッド、に寝ているもう一つの影を、起こさないようにしながら。
携帯電話をポケットに入れ、軽く服装を整える。
買出しでもと思ったが、扉まで歩いて内側からしか鍵が掛けられないことを思い出し、やめる。
仮にも公共の場所であるし、当然といえば当然なのだが。
ひとまず冷蔵庫を漁れば、夕べコンビニで買っておいた夕飯と朝飯があったことに気がついた。
サンドイッチ2食分、夕食を食べなかった為2人分がしっかりと用意されていた。
『…我ながら、今日の俺って準備良すぎねぇか?』
どちらかといえば準備じゃなくて「都合」が良すぎただけだけれども。
晴架は思わず空笑いすると、そんな思いが心を過ぎった。
缶コーヒーもしっかり2本。元はといえば自分の為に購入したものとはいえ、本当に都合が良すぎる己の行動が何となく情けなかった。
不意に、椅子に腰掛け、軽く肘杖を突いた。
起き抜けの所為か、其処まで未だ頭が回らない。
ただ、ぼんやりと覚えているのは、夕べの――
「………」
自主規制。思わず脳内に色々思い出してしまった。
これでも経験は豊富な方だった。
男性経験は女性経験には若干劣るけれども、無いわけではなかった。
今でこそ完全に攻めるスタイルを決め込んでいるけれども、過去に所謂"される側”になった経験もあった。
「――調子狂ったよなぁ」
マジで。
ボソリと呟けば、そっとシングルベッドへと視線を注ぐ。
衣服は軽く整えてやったけれども。
其処からは、乱れた金髪と真っ白な肌がちらりと見えた。
小さく寝息を立てる姿がまるで小さな子供のように見えて、思わず晴架は小さく微笑んだ。
外は、やや曇っている。
空をぼんやりと眺めながら、晴架はいつしか昔のことを思い出していた。
ふと、晴架は携帯電話で日付を確認する。
「――早ぇな、もうすぐ二周忌か」
工藤先生。
思わず、晴架は小さく呟く。
『――…いや、麗さん』
心の中で、その名前を呼び直した。
あの日。
たった一晩の短い逢瀬の後で、
事故に遭って逝ってしまった、今まで晴架にただ1人だった"相思相愛”だった相手。
当時の荒れ果てていた自分を救った、ただ1人の相手であった。
あれから、もう2年経つのか、とぼんやりと考える。
思えば、此処まで冷静に年月を数えたことは無かったかもしれない。
思えばあの夜、彼女は言った。
『――あなたはこんなおばさんじゃなくたって、まだまだ沢山の人を愛せるんだから。私1人に夢中になってちゃ勿体無いわよ?』
『酷ぇな、其れ』
『ふふっ…少し妬けるけど、若さには勝てないものね』
あれから、真っ直ぐ此処まで来たわけじゃない。
散々心は荒み、荒れるだけ荒れたけれども。
今の相手に回り逢うまで、好きになった相手がいなかったわけじゃないけれども。
けれども、其処まで本気で人を愛すことは、もう出来ないと思っていた。
『――…やっと、此処まで辿り着いた』
晴架は己の心境の変化を感じて、小さく笑った。
二周忌には、墓参りにでも行ってみようか。
菊とかそういうのは、きっと彼女も嫌がるから。
いっそ、大輪の薔薇の花束を持って。
そして、報告しようと思う。
『――…麗さん、俺、――』
暫く1人で考え事をしていた所為か、急に眠くなってきた。
そのまま、テーブルに突っ伏す。
未だ当分、ベッドの中で眠る相手は目を覚ましそうに無い。
「――起きんか、馬鹿者」
耳元でその声が響くまで、晴架は寝続けることになるけれども。
其れはまた、別のお話。
あとがき。
…情事の後なのに(←自主規制)妙にアレな話じゃないか自分orz
すみませんすみませんすみませn(ry
ここらでちょっと晴架の過去を暴露ってみたかったんです。
工藤麗さん。本文中にちょこっとだけ出てきてますが。
実は晴架のキャラ作った当時からちゃんと存在してました。
既にお亡くなりの設定だったし、当時はただの「麗さん」ってキャラ名しかありませんでしたが。
私のCご存知の方はピンときたかもしれませんが、ご存知工藤雅の故奥様です。
…この辺は結構滅茶苦茶な設定があるのでアレなのですが。
まぁ要は不倫してた訳ですよね。
しかも麗さん晴架の通ってた学校の保険医やってたとかね。
雅とは高校時代から目指すものが同じで、同じ大学の同じ学部まで出てたって設定なのですが。
晴架は色々と裏話が好きだった頃に作ったCなので無駄に色々くっつけてる訳ですが。
影ある割には表社会でめっさ明るく生きてる奴なのでPBCではなかなか楽しく遊べるのです。
奴にとっては「経験豊富」の一言で収まる範囲なので。
とりあえずこれ書いて真っ先に謝るべきは恋人様でしょうか(…)
(実はこれの続きも書いたけどあんまりに妄想突っ走り過ぎt/以下略)
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