それは3月の、ある日の事。
 ショッピングモールはある行事一色に染まっていた。

 そう、『ホワイトデー』
 女性からの気持ちを返すためにあるというこの行事。
 …菓子メーカーの陰謀という説もあるが、それは置いておくとして。
 この時期にこのショッピングモールは珍しく男性の姿が増える。
 カップルで来ている場合も珍しくは無いのだが、中には男同士で買いに来る者もいる。

「…だからって、何で俺がお前と買いに来なきゃならねぇんだ…?」
「兄貴に任せてられないでしょ…何選ぶかわかったもんじゃないし。澪ちゃんガッカリさせたくないし」
「なンだと…?」
ここにも一組。暁美弥、夢芽の年子兄弟である。
 3月になったとはいえ、まだ寒い。そのせいか、美弥の反論にも力が無かった。

「それじゃ…何処から探そうか」
「俺に聞くな…大体何処を探せば良いのかわかったもんじゃねぇ」
「ホラ、やっぱ売ってる所知らないんじゃん…やっぱ俺がついてきて良かった」
「お前だって普通に用があったんだろ…で、何処で買うのかわかんのか、お前は」
「当然。…こっち。迷子になんないでよ、みっともないから」
「なるかっ」
極端な季節が嫌いな美弥は、やはり突っ込みに力が入らないのであった。

「…それじゃあ…此処だな。結構安くて良いのがあった気がする…」
「でも、考えてみたら…何買えば良いんだ?」
「さぁ…それをこれから探すんでしょ。…どうしよっか…澪ちゃんの好きそうなもの…んー…」

 今日彼等がこのショッピングモールに来た表向きの目的は「従姉妹である砂流澪から貰ったチョコのお返しを買うこと」
 なのであったが、実は2人とも此処に裏向きな目的があるのであって。
 「彼女へのお返しを買う」
 別々に考えている割には、2人とも同じ目的であるのだが。

「…そういえば、彩川サンへのお返しはどうするの?」
「今は関係無ぇだろ」
「関係あるでしょ…大体今日買わずにいつ買うのさ…」
美弥はそれ以上反論する気にもなれなかった。

「お前だって…買うんだろ、今日」
「当然」
さらりと答えられて、美弥は次の言葉に詰まる。
 …大体口で夢芽に勝とうという方が無理なのだ。

「…ぁ」
「…あ」

 同時に目に入ったもの…
 それは…

「…コレで良いじゃん」
「…コレで良いだろ」
ほぼハモって見つけたのはある一つの商品。
 青い宝石のはまったペンダントで、澪には最高に似合っているようなものであった。
 が、しかし…問題が生じた。

「…いくらだ、コレ…」
美弥が値札を見る。横から夢芽が覗く。

「「…高ッ」」
2人の声が見事にハモった。

「…兄貴」
「何だ?」
「…割り勘にしない?」
「…そうだな」

 元々澪へのお返しは別々に買う予定だったのだが、この際仕方が無い。
 こういう時だけ意見の合う兄弟なのである。

「…じゃ、後は…」
澪へのお返しを包装してもらった後。

「…兄貴は彩川サンの買うんでしょ?」
「あぁ、一応…な」
「俺由羅の買うからさ、どうせなら付き合うよ…」
「何でまた…」
「兄貴、彩川さんが喜ぶようなもの選べるの?」
「…」
「決定。…どうせならこの店の中で探そうか…」
夢芽は美弥の先を店内を見回しながら歩き始めた。

「…夢芽」
「何…?」
「何で付いてくるんだ…?お前だったらすぐ選んですぐ帰れるだろーが」
「別に良いでしょ、そんなこと…」
「…そう言われると余計気になるんだが…」
「頼りにならない兄貴の為に、弟が親切で探すの手伝ってあげてるんだから…素直に受け取っとけば良いじゃん」
「ぅゎ…嘘だろ」

(…だって、兄貴と買い物するのって…凄ぇ楽しいからさ)
密かに夢芽はこう思いふっと笑って立ち止まるが…

「…どうだろうね?」
そう言って再び歩き出した。
「ちょっ…待て、夢芽…」
「早く来ないと置いてくよ?…ぁ、コレなんか良いかも…」
「誰にだ?」
「勿論、彩川サンに」
「…殴られたいか?お前…」
「嘘嘘、冗談だって」


 そんなこんなで…夢芽と美弥の買い物は予想以上に難航していたのだが。


「…やっと買えたね…」
「ああ…思った以上に時間かかったな…」
「もう夕方じゃん…通りで寒いわけだ…ぁ、兄貴…」
「ん…?」
「…タイヤキ買ってかない?勿論…兄貴のオゴリで」
「馬鹿言うんじゃねぇよ…行くぞ」
「良いじゃん、兄貴バイトしてんだからさ…それとも何、タイヤキ買う位のお金も稼いでないっての?」
「…一発殴るぞ?」
「おお怖…ま、良いや…じゃあ俺が澪ちゃんと俺の分だけ買っていこ…」
「は…?」
「兄貴、買わないんでしょ?…これで何の手土産も無かったら今日留守番してる澪ちゃんも可哀想だし…ぁーぁ、コレで今月分の小遣い無くなったー…」
「…」
「良いよ、俺と澪ちゃんでゆっくり食べるから…」

「…買えば良いんだろ、買えば…」
「やった…サンキュ、兄貴」
ニッと後ろで夢芽が笑う。

「…調子良い奴」
「兄貴は要領悪過ぎるの…」
「…ま…今日は探すの手伝ってもらったしな…たまには良いか」
その時、夢芽は、密かに笑ってこう呟いていた。

「…やっぱ兄貴は、『兄貴』だよね…」

「…ん…?何か言ったか?」
「何も…ぁ、俺粒餡ね。澪ちゃんもつぶあんで」
「…お前らなんでつぶの方が良いんだ…?」
「兄貴の感覚がおかしいんだよ…うちの家族で漉し餡好きなのって兄貴位だと思うけど…?」

 2人の帰路は、そんな会話が絶えなかった。
 やはりこの2人は何処か不思議な兄弟関係である。



 ちなみにこの話には続きがあるのであって。



「…まぁ、美弥さん、夢芽さんvお帰りなさいませ」
「タダイマ…澪ちゃん。お土産買って来たよ…タイヤキ」
「まぁ…vありがとうございますv」
「買ったのは俺だぞ…」
「わかっていますわvありがとうございます、美弥さん」
澪はにこりと笑う。
「さ…お茶をお入れしますわ」
「ありがと…」
「それじゃ…居間にいるな、俺たち…」
「はいv」

 …ひょっとしたら、この兄弟を一番よくわかっているのは…澪かもしれない。





………多分一番古い()
小説に此処まで惜しげもなく記号使ってるのって何時の話だよ(ぇー
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