「…ん?何だこの発注用紙にある『カメのキーホルダー』って…」
「えーっ、グルーさん知らないのぉ?今話題になっている、あの幸せになれるカメだよー」






消えたカメ






「で、何なんだ…そのカメ」
グルーは溜め息を隠しきれない。
 リリーメは半ば興奮気味でまくし立てる。
「雑誌に載ってたんだぁ。東洋の方の物なんだって!!」
2人は発注の確認をしている最中。
 飽きっぽいリリーメにしては雑貨屋のバイトは案外続いているようで…
 まあ、新商品がわかるという理由もあるのだが。
「東洋の方では、もうすでに女の子達はみんな持ってんだってー」
「ふーん…カメが、なぁ…」
どうにも納得できない様子のグルー。
「あぁっ、これっ!!サンプル商品が届いてる〜っ」
リリーメは早速サンプルを取り出す。
 それは赤い色の紐で彩られたいかにも東洋とでも言いたくなるようなデザイン。
 ふと、リリーメはそのカメを裏返してみた。
 カメの甲の裏側を見てリリーメの笑顔がぱぁっと明るくなる。
「わぁっ、やっぱりあったあったぁ♪」
「…何だ」
「あのねっ、ほら!!紐で少し隠れちゃってるけどこれ、東洋の方のお金だよねっ♪確か、単位が『円』でこれは『5円』。『5円』って『ご縁』があるって言う意味らしいよ。だから幸せになれるってvvv」
(ただ単に大きさがちょうど良かっただけだろ…)
そう言いたかったのを何とかこらえた。
 に、しても…
「くだらねぇギャグ…」
「そんなこと言っちゃだめだよ、グルーさんっ。私これ、絶対流行るって踏んでるんだからぁ」
「流行るのか…?コレが」
そう言うと、グルーはリリーメの手の中のカメをまじまじと見つめた。


 数日後。
 カメのキーホルダーが発注された3日目の出来事。
 どうやらリリーメの予想は当たったらしい。
 カメのキーホルダーは街の学園生を中心として爆発的な売れ行きになり
 今日、3日目で入荷した分が無くなってしまっていた。


「…一体コレのどこが良いんだか…」
グルーは碧のカメを手の中で見つめる。
「っつーかさぁ、グルーは何で持ってるんだよ」
「店長がサンプル商品としていくらかもらってきたんだ。店員全員に配ってた」
ここはグルーの部屋。
 ファレイもシルドも暇ついでに遊びに来ていた。
「でもこの素材に使われてる紐って確か金の紡ぎ糸に色つけたものだろう?結構良いもの使ってるんだな」
ファレイはカメを見てしみじみ呟く。
 金の紡ぎ糸とはいざという時の防御アイテム。
 不意打ちなどをくらった時にバリアになって一度だけ助けてくれる。
 そのためか良家のお嬢様などが護身用に持ち歩くケースが多いようだ。
「でも、悪くないと思うけど。コレ」
「ファレイ…お前のセンス疑うぞ、俺」


 …そして
 数日後。

「グルーさぁんっ」
リリーメが店に駆け込んできた。
「何だ、リリーメ…遅刻したと思ったらいきなり飛び込んできて…」
「大変なのぉっ。カメが…カメが…」
「カメが?」
「いなくなっちゃったのぉっ!!」

「…で、一体何があったんだ?」
リリーメがいくらか冷静になったところでグルーは訊いた。
「私のカメがどっかにいっちゃって…どこにあるんだろう…あと、お店にあるのもごっそりと」
「何だとっ、それって大事じゃないか!!」
そばで聞いていた店長が立ち上がる。
「そうなんですよ店長〜、もうどうしようかと思っちゃって…っ」

 ふと、グルーの肩に店長の手が置かれた。

「…店長?」
「グルー君、君なら――」
「嫌です」
言い出す前にきっぱり言った。
「そんなこと言わないで、探してくれよ」
「何で俺がたかがカメのために…」


…数分後


「やったぁ☆お願いねーっ、グルーさんっ♪」
「いやぁ助かったよ」


「…で、そのいきさつはわかったんだけどさ。何で俺たちまでここにいるわけ?」
「しょうがねぇだろ、探さなきゃ減給するって言うんだしな。お前らだって、何かにつけて俺を巻き込むだろう」
「まあな…しかしなグルー、ここには…さすがに無いと思うぞ」
シルドとグルーの会話である。目の前に広がっているのは青々とした海。
 …カメといえば水、水といえば海という連想でここまで来たのだが――
「いくらカメでも、製品のカメがここにあるはずはないと俺は思うけど」
「…ファレイ、お前だよな。この連想を言ったのは」
「おいおい、俺一人が悪いみたいに言わないでくれよ。大体ちょっとした洒落で言ったものをお前らが本気にして、ここまで来ちゃったんじゃなかったっけ?」

…ファレイが正論である。

「…でもよぉ、どうする?」
「しょうがない…リリーメのところにでも行って、話を聞いてみるか」
「それが一番かも」
シルドも同意した。

「…カメがいなくなった時のこと?」
「ああ。何かわかればと思ったんだけど」
ファレイが微笑む。
「…さぁ、気づいたらいなくなってたんだよねぇ」
これでは役に立ちそうも無い。
 リリーメに聞いたのが間違いだと思ってあきらめることにした。
「…行こう」
「あっ、そうだっ。役に立つかはわからないけど…」
リリーメはポンと手を叩いた。
「…何だ?」
「あのね、クレイアさんがちょうどさっき立ち寄って…事件のこと話したら調べるって言ってた!」



「…また面倒な事に…」
「まあ、クレイアの情報は役に立つし…」
「よし、今度こそデート誘うぞっ!」
「魔界に誘い込まれるぞシルド…」
山道を歩き歩き…ぶつくさ言う者なだめる者本来の目的をすでに忘れつつある者…


「…おっ、奇跡だ。メリッサに見つかんなかったー!」
シルドが感嘆の声を上げる。
「ほら、さっさと行くぞ」
3人同時に魔法陣に乗る。


「わっ、バカ!押すんじゃねぇシルド!!」


「…あら、3人揃ってどうしたの?」
クレイアの前には2人折り重なり1人は平然としてその場に立っていた。

「いや、クレイアがリリーメのカメのことを調べてるって聞いたものでね」
ファレイが言う。
「グルー君、大丈夫かしら?」
「さぁ、これ位じゃ死なないと思うけど」
「ファレイ!…てめえもいいかげんどけっ」
グルーはシルドを跳ね飛ばし立ち上がった。
「ぐえっ…何しやがるんだグルー!!」
「るせぇっ!!…で、クレイア…聞きたいんだが」

「ええ、確かに調べたわ。でも…」
クレイアは手元にある水晶玉を覗く。

「…きっとすぐに見つかるわ」
「どこにあるんだ」
「さぁ…私が言うまでも無いわよ」



「…ったく、あいつ…じらすだけじらして強制的に戻しやがって…」
「まあ、自分達で探せ…と」
「そういうことだな。で、どこ探す?」
ファレイは言う。
 しかしその顔には悟り気味の表情が…

「…ファレイ、お前何か知ってるんじゃないのか?」
「さぁ、何の事だ?」
微笑。
(…絶対コイツ何か知ってる…!!)
しかしファレイから強引に聞き出す事…それは完全に不可能であって。


 グルー達一行は街への山道を下り始めていた。


「あっ…みなさんどうしたんですか?」
聞き覚えのある幼い少年の声。
「お、カレイドか。久しぶりじゃねぇか」
「最近ちょっと両親の所を訪ねていたもので…」
「どこ行くんだ?」
ファレイが聞く。

「あ、ちょっとクレイアさんの所に薬を買いに行くんです。…ちょっと切らしてしまったもので」
「そうか」
すると、グルーはあるものを見逃さなかった。

「カレイド、それは…」
カレイドのカバンについていたもの…それは…


「…カメ!?」


「ああ、ハイ。母がくれたんです…」
「…は?」
「そういえばカレイドの田舎って東洋の方だったよなー」
…今1番見たくないものを見てしまった。



「…ああっ、グルーさん!それに皆さん!」
「リリーメ、お前店はどうした」
「探しに行くって言ったら店長が休みをくれたの。で、カメ…見つかった??」
「見つかるわけねぇだろ」
ボソッと言う。
「あっちゃぁ〜、こりゃぁ減給決定だね、グルーさん」
「誰のせいだと思ってんだっ」


 すると、その時。


「あああああーっ」
リリーメが「あるもの」を指差して声を上げる。
「どうした」
「カメよ、カメ!!」

「…なんだって…!?」
リリーメの指差す方向を見る。



 それは、何かの影がカメのキーホルダーをごっそり抱え、逃走していく…ハタから見れば妖しい者だと丸わかりな格好をした影だった。


「追えっ!!」
「わかってるって!!」
「あーっ、私も行くーっ」


 走る、走る。
 走って、浜辺まで出てきてしまった。
 もう既に随分日も傾いていたが…



「…どこだ!」
「あ、あそこっ!!」
リリーメが指差す。


 前方に影が見える。



「…それっ、ファイア・イリュージョンっ」
一応学生であるリリーメが魔法の呪文を唱え、印を切った。

「…リリーメ!!馬鹿、商品が燃えたらどうする…」
その魔法は影にちょうどヒットした。


「グオォォォォォォ」



「やったぁ☆」
「商品は無事か!?」
その時――


ドォォォォォォン



「きゃぁっ!?」
「爆発だとっ!?聞いてねーよそんなこと!!」
シルドも言う。砂浜だけに砂が飛び散り視界がかなり悪くなった。


 すると、火の玉がグルーとリリーメの方向かって飛んできたのだ――


「…っ!?」
その時だった。


「…何だと…!?」
「あ、あれ…?」
一瞬、光に包まれた。
 そして、1つのカメが2人の頭上に見えたのである。


「…これ、私のカメ!!」
「そうか…金の紡ぎ糸で…」

 砂埃が治まると、カメは光を発して消えた。

「…あぁー…助かったぁ…」
「まぁな…ん…?」
グルーが目の前に見たもの、それは…


 ものの見事に砂まみれになったカメのキーホルダー達だった。


「なっ…」
「あーあ、グルーさん減給決定だね。ま、元気出してよ」
「…うるさい、元はといえばお前が…」
「え…あはは、まぁしょうがないよね!」
とりあえずファレイもシルドも助かったようだ。

「ま、とりあえず一件落着…かな?」
ファレイがそう言うが…

「…減給処分決定だ…」
そこには浮かない…むしろ落ち込んでいるようにも見えるグルーの顔があった。





 そして、これはその後の話である。
 グルーは商品を全てダメにされ減給に。
 リリーメは特に何もされず普通に過ごし…
 何故かグルーの手元には同じカメがあったりする。


「…もう見たくねぇ…」
「あ、そういえばこんな伝説知ってる?グルー」
「何だ、ファレイ」

「東洋の方で伝わってるんだけどね、赤い糸の伝説って言うんだけど…」
「それなら聞いたことがある」
「なら話は早いよ。最近金の紡ぎ糸に似たような作用があるって研究者の間で密かにささやかれててね…あの時リリーメとグルーを守ったのって金の紡ぎ糸だろう?だったら…」
「っ…縁起でもないこと言うなっ!!」
一瞬身震いがして、その場を立ち去った。

「…ファレイ、今のって本当か?」
「本当のように聞こえた?シルド」
「いや…」

 もう、カメなんて…見たくなかった。


 しかし。
 まだ不幸が終わったわけではなかった。

「…店長、何ですかこの売れ残りの山は…」
「ああ、これかい?」

「ブームが過ぎ去ってしまってね…そうだ、グルー君。全部持っていってくれ」
「…なっ…」
「頼むよ。こんな量があっても、邪魔なだけなんだ。お金は良いから」

 そして、溢れるほどのカメがグルーの手に渡ったのだ。


「そういえばさ…ファレイはカメの居場所知ってたのか?」
シルドが持ち出す。
「ああ、まぁね」
ファレイは微笑して言った。
「あれはきっと…」
「きっと?」
「いや、言わないでおくよ。…ちょっとグルーをからかってやりたくて、言わなかったんだけど」
「?何でだ??」
「まぁ、たまにはからかっても面白そうだな…って思って」
「さっきのもそれでか…」
シルドはファレイを何気に少し怖い奴だと知った。




「…あれ〜?ねぇ姉貴、ここにあったカメ知らない??」
「カメ?…ああ、そこにあった糸の塊のことね。すこし汚かったから、捨てておいたわ」
「えーっ、マジ!?…まぁ良いか…もうブーム過ぎちゃったしぃ…」




 そして、グルーに追い討ちをかけたのが…これだった。



「あっ、こんにちは!グルーさん」
「…ティファか」
「これ、この間ミリーさんがくれたんですけど…」
そしてティファが最高のの笑みで出したのは…カメ、だった。

「ほら!可愛いですよね〜…」
「カメ…」
「2つあるんで、グルーさんに1つあげます」
「なっ…」
渡されてしまった。

「大切にしてくださいねっ。あ、それじゃあそろそろ行きます」
「あ、ああ…」
「さよならっ」


 …ティファから貰って捨てるわけにもいかず。
 店長から受け取ってしまった大量のカメと共に…
 グルーは帰路についたのだった。



「…もうカメなんて、見たくねぇ…」





あとがき

コレも修正無しです(^^;
友人Aちゃんからのリクエスト作品…なのですが…
本当、風見鶏初のコメディタッチ作品ですよ…(苦笑)
結局カメを盗んだのは何なんでしょうねぇ…
ってか、ファレイ黒いし(爆)

ではでは、読んでくださりありがとうございましたー!!