銀の風見鶏 第二話 それぞれの秘密、深まる謎


 …ブルースカイの朝は、いつもと同じように活気に満ち溢れていた。
 それはアパート、フィッシュ館でも同じことだった。
 いや、ここは活気と言うものとは…ちょっと違うような気はするが。

「おはよう!グルー」
「…何だ、用ならさっさと言え」
「今日こそナンパ、付き合ってくれるよな?」
「…(放っておこう)…」
「ああっ、グルー!何も言わずに去るなぁ!!」
シルドはいつものようにグルーを追い掛け回している。彼はグルーの容姿に目をつけているのだ。

 グルーはシルドを完全無視し、バイトに向かうことにした。


 彼…グルー・ブレイアンドはここ、ブルースカイに来て2ヶ月になる。
 最初に会った謎の男とは、あれっきり会ってはいないが…
 風見鶏のことをもうしばらく、ここでバイトをしながら調べようと思ったのだ。


「大体お前…ナンパの他にやることはないのかよ」
「そんなのあるわけねぇ!!…と、言いたい所なんだがな…」
急にシルドが口ごもる。

「実は最近懐がさみしくなってきててだな…早急にバイトを探さなければならないのだ」
そういえばグルーは、シルドが働いているのを見たことがなかった。
「…で、どこかあてはあるのか?」
「んー…今までいた所はついこの間クビになっちまったしなぁ…」
ファレイの問いにもそう答える。

「…どうでもいいが…」
「あん?何だ、グルー」
「何でここにいるんだお前等…」

 そう、ここはグルーの部屋。
 シルドはグルーをナンパに誘いに来てからなかなか帰らないしその上ファレイまでおしかけてきてしまったのだからグルーにとってはたまったもんじゃなかった。

「ああ、そうだ…俺はグルーとシルドを朝食に誘おうとしてたんだ」
「そういえばそんな時間だな…」
「よし、じゃあ行こうぜ」
そして3人はフィッシュ館を出たのだった。


「この時間はさすがに学生が多いな…」
3人の行ったパン屋兼喫茶店ルネサンスでは学校前の学生達でごった返していた。

「この時間はちょうど昼間の弁当買いに来る客が多いんだよな。しょうがない…朝食は少し遅れそうだな。レオラは昨日仕事に行っちまったみたいだし」
すると…

「あーっ、雑貨店の店員さん!!」
急に聞き覚えの無い声。

「…」
「ねぇ、そこの…茶髪でシルドさんの隣にいる人!!雑貨店の店員さんでしょー?」

 …どうやらグルーのことを言っているらしい。

「…何だ」
「あっ、やっぱり店員さんだぁ」
全く見覚えのない少女。面影が誰かに似ている気もするが、それは深くは考えなかった。

「…誰だお前は」
「あ、ごめんなさい!えーと、雑貨店でバイトしている人ですよね?」
グルーは面倒くさかったが雑貨店でバイトをしているのは事実なので
「…そうだが…」
と答えておいた。
「あーっ、やっぱりぃ。やだ、感激〜☆」
隣にいる大人しそうな少女に言っている。
「リ、リリーメ…失礼だよぉ…」
大人しそうな少女はそうたしなめる。少なくともこちらの方が常識は通じそうだ。
「あ…」
ようやく興奮が少し冷めたようで。

「呼び止めてごめんなさいっ。あの、雑貨店で働いてるあなたのことが今学校で話題になってて…えーと、それじゃ失礼しまっす☆行こう、ミリー」
「あ…リリーメ待ってー…あの、それじゃあ失礼します」
二人は去った。

「…おい、グルー…」
「何だ…?」
「お前、今度こそ絶対ナンパ付き合えよな」


「姉貴っ」
先ほどの少女は、家に帰るなり家事をしている姉に呼びかけた。どうやら学校で話しただけでは飽き足らず、姉にまで話そうというのである。
「…何かしら?」
姉はいつものことなので手を止めずに話を聞いてやることにした。
「あのねっ、今日雑貨店の店員さんに会ったのぉ♪まだ名前は知らないけど、絶対調べてやるんだぁ☆」
雑貨店の店員…ああ、そういえばリリーメがいつも口にしている男性がいたような…などと考えつつ、彼女はこう提案した。
「だったら雑貨店でバイトすればいいだけの事でしょ。あなたが働いてくれれば、家計も少しは楽になるわ」
「そっかぁ、その手があったか☆さすが姉貴!それじゃ、早速手続きしてくるね〜♪」
一言位反論するかと思いきや。彼女はその意見をすんなり受け入れ、手続きをするために出て行ってしまった。
「…まったく、あの子も変わらないわね…」


 昼過ぎの街は、いろいろな人で賑わっていた。
「…さて、俺もバイトに行くか…」
グルーの雑貨店のバイトの時間が迫ってきていたので、そこへ行くことにした。
「…こんちは」
「おお、グルー君。今日からこの2人がバイトに来ることになるから、いろいろ教えてやってくれ。ケイラには上の仕事をやってもらうことになったからね」
ケイラというのは、グルーのバイトの先輩で色々教えてもらっていた。

 …そして、その二人というのは…

「えーと、グルーさん…だったよね?よろしくお願いしまーす♪」
「あ、あの…よろしくお願いします」
朝会った二人だった。

「…」
思わず溜め息を吐いてしまう。
「あーっ、ひどいなぁ。溜め息吐くなんて」
「リ、リリーメ…」
すると、グルーは彼女達の名前をほとんど知らないことに気づいた。

「…もう知ってるみたいだけど、俺はグルー・ブレイアンドだ…お前らは何だ?」
すると大人しそうな顔の少女が先に
「あ、あの…ミリー・シルフォーネです…」
と、答える。次に明るそうな少女がこう答えた。
「私の名前はリリーメ・ルージュ。よろしくね☆グルーさん」
名字に妙に聞き覚えがあった。


「あの、グルーさん。これは…?」
「…そこの棚だ」
「グルーさぁん!ちょっとこっち見てほしいんだけど!」

――30分後

 グルーは今までにないくらい忙しかった。

「…今度は何だ…」
「あのねー、ここ。商品はこの値段になってるのに、売り場に書かれてる値段とは違うの。どうすればいいんですかぁ?」
「…売り場をよく見てみろ」
グルーの指差した先には、『半額!!』の文字が高々と浮かんでいた。
「あ…」
「…少しは落ち着きやがれ…ったく」
グルーは溜め息を吐き、自分の持ち場に戻っていった。

「あ、あの、グルーさん…」
「…今度は何だ?」
「あの…お客様が商品が違うというので、返金しちゃったんですけど…」
「…で、商品は?」
「あっ…」
「…」
もう既に溜め息の回数を数える気にもならなかった。

「…」
「あら、おかえりなさい。グルー君」
誰もいないはずの部屋の中から、女性の声。
 普通なら怪しむ所だが、正体はすぐにわかった。
 鍵がかけてある部屋の中に、いとも簡単に入り込む人物――…
 それは、グルーが知っている限り一人しかいない。

「…なぜここにいる」
「あら、ちょっと私の家、知らない間に魔法陣が消されて入れなくって。だから今日の昼間はちょっとお邪魔させてもらったのよ…夜じゃなきゃ、魔法陣を描けないから。図書館も飽きたしね」
…クレイア。
 グルーはその日もう既に何回目かもわからない溜め息を吐いた。

「それじゃ、失礼するわ。…そうそう、夕べ私の夢の中に前現れた不信人物が出てきたのよ。彼、近いうちに出てくるかもしれないわね」
それだけ言って、クレイアは姿を消した。
(…何てヤロウだ…)
しかも、彼女のいた場所に…何やらよくわからないような悪寒が残されていたのは言うまでもない。








→NEXT
→銀の風見鶏TOPへ