何となく、街に出てみる。
 特に用も無かったのだが…
 すると、寒気のする声が聞こえた…

「グルーさぁ〜んっ」
「…っ!?」
「あ、こんにちは。グルーさん」

 グルーの方に手を振ってきたリリーメとミリー…
 グルーの背筋を寒くさせるのは後者の方ではない。どちらかといえば前者の方だ。

「グルーさんっ、ちょっとお願いがあるんだけど…」
「…会って数秒後にそれは何だ…」

 あきれ果てるグルー。
 まあ、いつものことなのだが。

「あのさ、姉貴に今日遅くなるって伝えといてくれないかな?」
「人の言葉は完全無視か」
「ごめんごめん。でも私これからバイトなんだよねー。ねえ、お願い〜」
すがりついてくる。
「…知らねぇな」
歩き出そうとしたところをがしっとつかむ。

「伝えといてくれないと、『あのこと』言っちゃうよ?」

 …間。

「『あのこと』…って何だ」
「さぁ…何のことだろうね〜」
にやりと笑う。

「…何のことだ?」
「やぁだっ、グルーさんったら怖い〜」
けらけらと笑う。
 グルーは即答で
「…くだらねぇ」
と一言言ってその場を去ろうとした。
「あ、あああ〜っ…お願いだから待ってぇグルーさぁんっ」
「何だ、今度は」
面倒くさそうにグルーは振り返ってみる。

 …うるうるうる…


「…知るか」
「あーっ、ひどぉいっ!!いいもんっ、姉貴にグルーさんが無断で農場入ったって言っちゃうからっ!!」
「…」
「姉貴は怒ると怖いんだよー、そういえば隣町から羊の餌仕入れに行くの面倒くさいって言ってたなぁー…」
「…」
「グルーさんが農場入ったって言ったら姉貴、何て言うかなぁー」



「…わかった…から言うな」
「やったぁ〜♪わかったよグルーさんっ☆ありがとうっ!!!!!」
リリーメは笑顔で言った。
 グルーはいくら何でもメリッサの耳にそんなことを吹き込まれては困る…そんなことを思いながら承諾した。



(…大体リリーメの言い分をメリッサが本気にするはずないか…メリッサならすぐに察するよな…)
去った後に考える。
 まあ、今更後の祭り…という事だが。

 農場でメリッサを探してみる…
 すると…

「ん…?」
誰かと一緒だった。

「あ、グルーさん」
「メリッサ、どうした」
「困ったのよ…この子、何にもしゃべらなくって…」
傍にいたのはグルーの腰ぐらいの背の少女。
 とても薄い肌の色をしていて、ふわふわの髪の毛を後ろにたらしていた。
 身なりは薄く白い服のワンピースを着ている。かなり薄汚れていた。
「どこのガキだ…?っと、メリッサ。リリーメが遅くなるって言ってたが」
「そう…ありがとう。それにしても…どうしようかしら。身寄りがわからないと…」
「放っておけばいいだろ」
「最初はそうだったんだけど…こんな小さな子供だし、でもさっきからずっとここから海を見ているの」
彼女の目には…海以外映っていないようで。
 すると…聞き覚えのある声が。

「メリッサさん、グルーさん…と…ああっ、マリーちゃんっ」
その声は…ティファだった。

「どうしたのっ、マリーちゃん…こんなに汚れちゃってて…」
「ティファ…」
初めて声を出した。
「ティファニーさん、知り合い?」
「あ、はい…」
ティファは少しうつむきがちにこう言った。
「私がいつも花を仕入れている先の…娘さんなんです」
その顔は、心配の色で溢れていた。


→NEXT
→銀の風見鶏TOPへ