「…」
「何か見つけたか?」
ぼんやりと本を眺めていると、ファレイが話しかけてきた。

「…ファレイ?…そうか、ここはお前のバイト先だったな…」
「ああ」
ハタキを持った姿が以上に似合っていた。

「で、お探しのものは見つけたか?」
「いや、何も…だ」
溜め息を吐く。
「あ、グルー。俺そろそろバイト終わるから、一緒に帰ろう」
「ああ」
ファレイのバイトが終わる=図書館を閉めるという事だったので、グルーは素直に同意した。


「あっ、こんばんはっ」
「…ん?ティファか…」
「仕事の帰りか?」
ファレイが聞くと、後ろから珍しい人影が…

「カレイドか?」
「あ、こんばんは…グルーさん、ファレイさん」
異常に珍しい組み合わせである。

「仕事が早く終わって、そこでカレイド君に会ったんです。なので、途中まで一緒に帰ることになったんですよ」
笑顔で言う。
「へぇ…それじゃ、カレイド。せっかくだから…ティファを家のあたりまで送ってあげなよ。もう随分暗いし、カレイドは魔法力強いし」
「えっ!?そんな、私平気ですよっ。いつも通ってる道ですし」
「あ…じゃあ、僕送っていきます」
何だかどんどん話がそっちへ進んでいく。

「あ…じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな…」
「じゃ、俺達は先に帰るから…行こう、グルー」
「ああ」
偶然にもそこは、ティファの家への道との境目だった。

 …何故かグルーは、妙な気分だった。


「…グルー、どうした?」
「ん…何だ、ファレイ」
「いや、ちょっと機嫌悪そうだけど。さっきからむすっとしてるし」
妙に悟りきった口調。

「さっきのは、あれで良いと俺は思ったから。ああしたんだけど」
「…」
「どっちみち、ティファを1人で帰すのは…まぁいつも通りだからそんな危険ってわけでもないけど、男3人揃って誰も送らないと言うのは不自然だろう?第一それで何かあったら俺達に責任を問われる可能性もある」
「…」
「俺やグルーが送るのは展開的に変だから、展開的にカレイドに頼む事にしたんだよ」

「…うるせぇよ」
「ん。わかったよ」
…グルーの機嫌が悪いのは、事実だった。


「あ、お帰りーっ。…2人とも、ちょっと来い!」
「シルド?どうしたんだ、階段のど真ん中で…」
ファレイが聞く。
 …シルドは神妙な面持ちでこう言った。

「…リリーメが菓子作って持ってきた…さて、どうする?」


 実際、リリーメが料理をするという話は聞いたことが無い。
 大体メリッサが家事の全てをやり、その上自分はいつもバイトだの遊びだのやっていて台所に立つ時間があるとはとても考えられない。
 シルドの話によると、リリーメはフィッシュ館に来て彼を見つけるなり

『これっ、作ったの!!みんなで食べてっ!じゃあね〜!!』

 と言い、クッキーの大量に入った包みをシルドに渡し(押し付け)て去っていったようである。


「…危険だな。シルド、お前が食え」
グルーが一言。

「何ぃ!?それを言うならお前リリーメに好かれてるだろー!お前が食え!!」
シルドが反論する。

 しかし、その時。

「でもさ、これって…ちゃんとクッキーの形してるよな?中身はともかく、一応メリッサにでも教わって作ったんじゃないか?」
ファレイが一言。


「…」
「ま、一応シルドが貰ったわけだし…シルドが食べると良いよ、ハイ」
さわやかな微笑と共にクッキーの包みを手渡すあたり、ファレイはかなりのツワモノである。

「…うっ…」
シルドはもう覚悟を決めたようで。
 この後どう反論したって、口でファレイに勝てるはずが無いのだ。

「行くぞっ!!」
意を決してクッキーを口の中に放り込む。

「…?」
「…」
そして、シルドが一言。


「…味、しねぇ…」


「…何…だって?」
「だから、味がしねぇんだよ」
「ちょっと食べてみるかな…」
ファレイも食べてみる…が。
「…本当に、何の味もしない…」
「グルーも食べてみろよ!」
「なっ…!?んっ…」
無理矢理口の中にクッキーを放り込まれる。


「…本当に何の味もしねぇ…」


 リリーメは、ある意味強烈な人物なのかもしれない。
 結局クッキーはまずくはなかったのだが、闇に葬られることとなった。




「そういえば…そろそろカレイド、帰ってくる頃だな」
ファレイが呟く。
「ん?何でそんなのわかるんだ?」
「帰りに会ったんだ。ティファを送ってる途中だったから…」
すると、グルーはまた機嫌が悪くなってきた。


「…おい、ファレイ」
「何だ?」
「グルーの奴…さっきから何怒ってるんだ?」
ファレイがグルーの方を見る。

 …グルーの顔は、いつも難しいことでも考えてるような感じだが…
 今の苛立った表情は、どこかいつもと違っていた。

 …いつもと違って、多少親しみをも覚えるのだが。

「…もしかして、グルーの奴…」
シルドが呟く。

「ああ、多分そうだと思うよ」
ファレイも少し笑う。

 …2人は人の悪い笑みを交し合ったのだった。



「…2人とも何笑ってんだ」
「別に、何でもねーよっ」
「グルーが気にする事はないって」

 ファレイはグルーに悪いと思いつつも、何故だか顔が綻んでしまうのだった。



「…俺はもう帰る」
「ああ。じゃあな」
「じゃ、俺も帰るよ」
グルーとファレイは部屋から出て行った。


「じゃあな、グルー」
「ああ」
そして2人は自室に戻った。


「…わかんねぇよ」

 風見鶏を調べる事を先決に考えてきたのだが。
 しかし、それ以外の問題がグルーの周りを取り巻いている。
 その問題の意味すらグルーにはわかっていない。
 彼自身の心にも…影響を及ぼしている事さえ、彼にはわかっていない。

 ただ、過去の自分が…かつて感じた事のある感覚。
 それと似たようなものが…グルーを取り巻いていた。



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