…バタン
扉を閉めて、自分の椅子に腰掛けた。
そして、今日あったことを思い返してみる。
『…あの、ここに住んでる方ですか?』
『そうですけど…』
かしこまった服装の男性。
『ここに、シルフォード・サリアックという方が住んでいますね?』
『いいえ、そんな人は住んでませんよ』
そう答えておいた。
『…おかしいな…』
目の前の人物は顔をしかめる。
『あの、あなたは?』
『あ…失礼しました。では、これにて』
シルフォード・サリアック。
その名前は本当に知らなかった。
ただ、当てが無いといえば…嘘になるのだが。
「…シルフォード…か…」
ファレイは、そうぼんやりと呟いたのだった。
その日も、星が綺麗だった。
「わぁ…」
「綺麗ね、本当に」
「…!?」
彼女は反射的に身構えた。
しかし、そこにいた人物を確認すると緊張が解けた。
「…クレイアさん」
「こんばんわ」
クレイアは彼女の隣に座った。
「ふふ、驚いた?」
「少し…」
はにかんで見せた。しかし、「少し」というほどの驚きようではなかったのをクレイアは感じ取っていた。
「…本当に、あなたは不思議な人ね…」
「え…?」
「…いいえ、別に…何でもないわ」
そう微笑んだ。
…クレイア
彼女は全てを、知っている――…
彼女はこの漆黒の闇の中で――嫌な予感を感じていた。
彼は机に向かっていた。
そしてペンを走らせる。
そして全てを記し終えると…
封筒に包み、移動魔法で送信した。
…今日外で見た、人影のことを問うために――
そして、何かが起こりそうな予感を――ファレイは抱いていた。
「…おはよう、グルー」
翌日の事。
「あぁ…おはよう」
「…なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…入って良いか?」
「あぁ、構わない」
ファレイは神妙な面持ちになる。
朝からグルーの部屋に訪れるのはそうそう珍しい事ではないが…
シルドと一緒ではないという所が珍しい事だった・
「…アレ、気づいた?」
外を指差す。
「…ああ」
「やっぱり。…グルーに覚えは無いよね?」
「そうだな…俺が外出ても、襲ってこねぇし…目当ては…」
ファレイは頷く。どうやら考えていることは同じようだった。
「…何か聞かれた?」
「いや、俺は別に…何か聞かれたのか」
「あぁ。…ここに、シルフォード・サリアックという人が住んでるよなって」
するとグルーは眉を少し上げた。
「…サリアック…か」
「やっぱ、聞き覚えあるんだな。…俺も聞いたことだけはあるんだ」
サリアック家…
その名前は、グルーの頭にも刻まれていた。
「…まぁ、俺たちがどうするわけじゃねぇし…」
「あぁ。まぁ…そうだな。まだ行動に出るつもりも無いだろうし。さてと…それじゃあ俺、帰るから」
ファレイは微笑して立ち上がった。
「…あと、グルー」
「ん…?」
「…いや、何でもない」
苦笑いする。
「…?」
「それじゃあ、またな」
よくわからないままに、友人を送る。
その後姿は、何処と無く…全てを悟っているようにも見えて。
そして遂に、「事件」が起こる――
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