「…これはまた、変わった掘り出しモンを発見しちまったようだな…」
影は二ィと笑う。間違い無く…コールドだった。
そして、目の前のもう1人は歯を食いしばって身構えている。
「…」
「アンタ…危険種族のうちの1つ…サーレか何かの混血、だろ?」
「…だったら、何なんですか…?」
「悪いことは言わねぇ…俺に手を貸しな」
「誰があなたなんかに…!」
もう1人…少女、とさせてもらおう。
少女は近づいてくるたびに後ずさりをする。正直、かなり不利な状況だった。
気を緩めると、今かろうじて耐えている拘束魔法でがんじがらめにされてしまうだろう。
「…前に拉致らせてもらった時から、妙な気配でおかしいとは思ってたけどな…」
「…くっ…」
「元気な事は一向に構わねぇが…大概にしとかねぇと、せっかく守りきったモノに傷がつくぜ?」
少女は相手を睨み続ける。せめて、ここから脱しなければならない。
が、脱しようとすればするほど…拘束魔法の威力が上がっていくのがわかる。
「…!?何だ…?」
ふと、後ろから漏れる光。
それは少女を包み込むと…消えていった。
「…チッ…逃げらたか」
コールドは踵を返すと、自分も消えることにした。
「…クレイアさ…っ」
「…危なかったわね…」
頭上から様子を見守っていたクレイアは離れた所で彼女を放した。
「夜中の散歩は危険よ…?特に、あなたのような存在には、ね…」
ふっと笑いかける。少女も、それで肩の力が抜けたようだった。
「…ぁりがとう、ございます…」
苦笑いをして返す。
「どう致しまして…ティファニーさん」
「…やっぱり…気付いていたんですね、あなたは…」
クレイアは再度笑いかける。
そう、目の前にいる少女は…ティファニー・スロウリーその人であり。
三つ編みだが帽子だけしていない格好の彼女は、いつもの姿よりいくらか疲れているようにも見えた。
拘束魔法をかけられていたのだから、当然といえば当然なのだが。
「…当然よ…でも、気をつけなければならないわね…彼にあなたの正体を見破られたとなると…」
「…でも…大丈夫、だと思います。私は…あの子達を守りきれれば、それで充分ですから…」
ティファは微笑した。クレイアは少し考えると…こう言った。
「…わかったわ。じゃあ、此処に薄い結界を張っておいてあげる。しばらくは、それで心配無いはずよ…万が一、結界を破られたとしたら…危険だけれども」
「ありがとうございます…クレイアさん」
ティファはそれで充分と言うように、微笑んでみせた。
グルーは丘に来ていた。
しかし、そこには既に誰も居ない。
広がっているのは静寂のみだった。
「…一足遅かったか…」
「そうでもないわよ…?」
後ろにクレイアが降り立つ。
「…もっとも、もう彼等は此処にはいないわ…それに関しては、遅かったと言うべきかもしれないけれど」
「…」
「…あなたが…」
「…?」
「…あなたが、もし…風見鶏の謎を解いたら…あなたはどうするの?」
――ナゾヲトイタラ、アナタハドウスルノ――?
「…考えてねぇよ」
「もしも…その結末が、あなたの望まないものだとしたら?」
「…ンなことは考えねぇ。どんな結果であろうと…俺は謎を解くと決めたんだ」
「…なら良いけれど…ただ…」
「…ただ…何だ?」
「…いいえ、何でもないわ」
クレイアはそれだけ言うと、ふっと夜の闇に消えていった。
(…ただ、あなたのために…彼女が傷つけられた事を知ったら…あなたは黙っていないでしょうね)
「おはようございますっ」
――次の日、ティファはいつもと同じ様子でグルーに話しかけていた。
「…ああ」
「メリッサさんの具合、大分良くなったみたいですよ♪今日ちょっと寄ってみたんですけど、随分元気そうでした」
そう、いつものように…無邪気に笑ってみせる。
「…良かったな」
「はいっ」
――そして、また今日も…いつもの日常が始まる。
その裏で…何かが動き出している事を、グルーは少しずつ察しつつあった。
…ただ、グルーは考えていた。
(…俺に何があろうとも…コイツだけは巻き込まねぇ…)
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