目の前に広がる惨状。
 平和な生活が、一瞬にして砕け散ったあの日。

「何でお前ばっかこんな目に遭うんだかは知らねぇが…俺はお前の味方だぜ?」
「事情はよく知らないけど、グルーが大変なのはわかってるもん。だから、私はグルーの見方♪」

 そう言って、笑ってくれたかつての仲間達。
 その姿が、どんどん遠く消えていって…

 いつか、自分さえも闇に呑まれていく――


銀の風見鶏 第六話 守りたいものがある


「…!?」
最後に誰かの顔が思い出されて――グルーは眠りから覚めた。

「何…だ、今の夢は…」
寝た後だというのに、彼の体は疲れきっていて…そして、風見鶏も不安定な光を放っていた。
 …何かしら悪いことが起こる前触れかのように、光る風見鶏、
 妙な胸騒ぎが…する。


「…」
久しぶりに、異常なぐらいの早起きをする。
「おはよ、グルー」
隣の部屋のベランダからファレイが話しかけてきた。

「…早いな」
「俺はいつもこれぐらいの時間には起きてるけど?」
「そうか…」
そう言ったきり、会話は止まる。
 2人は朝日を眺めていた。

「…平和だな、此処は」
ふとグルーがぽつりと口にする。
「何を今更…」
「平和すぎて…忘れそうだ」
「ん…?」
ファレイは相変わらずのポーカーフェイスで問いかけてくる。
 が、グルーは何も言わなかった。

「…さて、そろそろ朝食食いに行くか?シルドの部屋にでも」
「ああ…」

 フィッシュ荘に住んでいるのはグルー、ファレイ、シルド、カレイド…そして大家の5人。
 古い建物ではあるが、生活に必要なものは全て揃っているのだが…
 何分男しかいないと言うわけで、大家以外の4人で昼食以外の食事当番を分担していた。
 が…

「…シルドか…」
「ん、まぁ…食べれないものは無いし」
「ああ…食い物である以上は何でも食えるが…アイツの料理にはたまに悪くなった食材が入っているからな…」

 そんなわけで。
 グルーは多少重い足取りで今日の朝食当番・シルドの部屋へ向かったのであった。

――コンコン
「シルド、入るよ」
「…」
――ガチャリ

「おう、おはよう2人とも…そこ座っててくれよ〜、今作ってるからなー」
「…ああ」
「お邪魔します…っと、相変わらず片付いてる部屋だよな…此処」
確かにそこは、ファレイが言うとおり小奇麗に片付いている部屋だった。
 いつものことではあるが、シルドと聞いてイメージする部屋ではないだろう。


「…当然だろ?グルーみたいな部屋じゃ、女の子は呼べねぇからな」
「うるせぇよ」
「当然のことを言ったまでだ。…よし、完成」
「今日は何作ったんだ?」
シルドが大皿をかかえてやってくる。
 そこにあったのは、なかなか美味しそうな野菜炒めであった。
 他にパンやバターを用意し、その場に腰掛ける。

「んじゃ、いただきます」
シルドは両手を合わせて言った。同時に、食べにかかる。
 一方グルーは、パンをよく調べていた。

「…どうしたグルー、食べないのか?」
不思議そうな顔でシルドが尋ねる。
「オイ、コレ…何時のだ?」
「何時のって…ついこの前、メリッサに貰った…」
「この前って…まさか、俺とグルーも貰った時のか?」
「そうだけど…それがどうした?」
グルーはやれやれといったように溜息を吐き。パンを皿に置いた。

「…ソレ、軽く一月は前だよな?」
「そうだけど…保存はちゃんとしてたぞ?」
「此処、見ろ。カビが生えてる」
グルーは再びパンを持ち上げると、一部を指差して相手の前に差し出した。
「ぅっゎ…マジだ。…でもさ、ホラ…その部分だけ千切れば」
「馬鹿言うな。パンのカビってのはそこから根張ってるようなモンなんだ」
ファレイは軽く苦笑してみる。
「…げ…」
「と、言うわけだ。捨てとけよ、このパン」
「…勿体無ぇ」
最後にボソリと、グルーが零した。


――ガチャリ

 グルーが自室の扉を開ける。
 シルドもファレイも、今日はバイトの日であった。
 グルーのみの休日、ということである。

「…」
ごろりと横になる。
 こう暇ではすることが無い。
 いつもならそのまま寝について、一日を終えるのだが――

「…?」
どうやら、来客のようであった。気配を感じ取ると、グルーは上体を起こす。

「…何の用だ、クレイア」
「あら…あなたも随分と勘が良くなったものね」
ふわ、と黒いマントを翻しながら現れた黒髪の少女――クレイアだ。
「何の用だ、と聞いているんだが」
「何か用が無くちゃ来てはいけないのかしら?」
「ああ。早く何の用で此処に来たのか言え」
「…ふふ、あなたらしいわね」
と、言い終わるのとほぼ同時に…クレイアの表情から笑みが消えた。
 グルーも眉を顰める。

 クレイアは、宙にそっと腰掛けるようにして…話し始めた。



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