目を開けると、そこは小さな小屋…ティファとその弟達の住んでいる家の前だった。

「着いたわ…」
「ああ…中は?」
「まだ、何も起こってないようね…ただ、結界のすぐ外に何か気配を感じるわ…結界越しだから何者かはわからないけれど」
2人はとりあえず息を吐く。が、安心していられる状況ではない。
 足早にドアの前まで駆ければ、こんこん、とクレイアがノックした。

「…はい、どちらさまですか?」
扉を開けずに、ティファの声がする。その声は、やはり少なからずとも警戒している様子であった。
「クレイアよ、グルー君もいるから開けてもらえるかしら?」
「あ、はい!ちょっと待っててくださいね」
声色から、僅かに安心したのがわかる。
 扉が僅かに開くと、グルーとクレイアはそこから滑り込むように扉の中へと入った。

「邪魔するぞ…」
「おはようございます、クレイアさん、グルーさん」
「陽気はおはよう、って言う挨拶には見えないけどね…」
ティファはそうですね、と言って小さく笑った。
 小さな弟達は、その下でティファのスカートの裾を握ったりしている。震えて、啜り泣き声を上げている子供もいた。
 その中から、マリーがとことこと歩いてくる。

「皆…怖がってるの」
グルーの足元から、後ろにひっくり返りそうなほどにグルーを見上げると…マリーはいつもの無表情のまま、そう言った。
「…何?」
「皆…怖いんだって。やっつけにくるって、怖いんだって」
「マリーちゃん」
半ば、遮るようにティファが制した。グルーはティファの方を見る。
 ティファは、視線をすっと逸らした。

「…そう」
クレイアだけが、その意図を察したように…小さな弟達のほうへと歩いていった。

「大丈夫よ、…あなたたちをやっつけに来る人は…誰もいないからね?」
「…ほんと?」
一人の子供が、涙目でクレイアを見上げる。
「…本当、よ」
その目に、嘘偽りは全く無いように見えた。

「…クレイア」
「何かしら…?」
グルーは、言いかけて言葉に詰まった。
 グルーの風見鶏の謎は解けたが、マリーの風見鶏はどうなのか。
 それを、持ちかけようとしたのだが――

「…グルーさん?」
此処には、ティファがいる。

「…いや、何でも無い」
グルーは、そう言うしかなかった。

「…グルー」
「何だ…?」
「あのね…マリーの、風見鶏…消えちゃったの」
「何…!?」
「何ですって…!?」
クレイアは、マリーの傍に来て問いかけた。

「…どういうことか、説明してもらえる…かしら?」
「………わかんない。なくなっちゃったの」
クレイアは、グルーと顔を見合わせる。
 ふと、ティファは苦笑して…こう言った。

「…マリーちゃんは、私たちを守ってくれたんですよ」
二人は、驚いたようにティファのほうを振り向いた。

「…立ち話もなんですから、座りませんか?良いお茶があるんです」
ティファは、そう言ってぱたぱたと給仕にかかった。
 グルーとクレイアは、ただ呆然と…顔を見合わせるしかなかった。



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