かちゃかちゃ、かちゃ…
カップを沢山、お盆の上に乗せてティファがやってきた。
「はい、どーぞ」
にこやかにカップを配る。
「…ああ」
「ありがとう」
2人も受け取った。小さな弟達も、目の前に腰掛けている。グルーの隣にはマリーが、そしてその隣にはクレイアが座っていた。
そしてティファは…空いた席に、腰掛けた。一度お茶を啜ってから、ティファは小さく微笑むと
「…どこから、話せば良いでしょう?」
と、問いかけた。
「そうね…マリーちゃんの風見鶏が消えたこと、について…かしら?」
「ちょっと待て…ティファ、…お前は…」
風見鶏が見えているのか、と続けようとして…ティファが先にこう言った。
「見えてます、最初から…全部。グルーさんのも、マリーちゃんのも」
「…何故…!」
言わなかった、と続けようとして…今度はクレイアがそっと手で制した。
「…聞きたいことは山ほどあると思うけど、私事は後にしてもらえる?とりあえず今は、マリーちゃんの話が先よ」
「…ああ」
「答えてもらえる?ティファさん」
「はい、…さっき…」
ティファが話すことをまとめるとこうなる。
先ほど、グルーとクレイアが来るちょっと前。
ティファと弟達、勿論マリーも含め全員で朝食を食べていたときのこと。突然、荒いノックの音が響き渡った。
ティファが扉を開けると、そこには青年の姿があった。知らない姿に誰かと訪ねると、その青年は口元で確かに…魔法の詠唱を行ったらしい。
青年の姿から大きな光が溢れ、強い風と全てが光に包まれた…皆吹き飛ばされる、と思ったその時、マリーの体から風見鶏が出てきたようなのである。その姿は、全員が目にしていた。
風見鶏は光を吸い取り、風も鎮めた。全てのものを何事も無かったかのように戻すと、青年は軽く舌打ちして消え去っていったようである。
そこで、風見鶏は…風化するように消えてしまったと言うのだ。
そして、その青年は…間違いなく、コールドであったという。
「…おかしいわね、結界には何の異常も無かったわ…」
「でも、あの人なら…結界を破ることぐらい、難なくこなせてしまうのではないでしょうか」
クレイアはどこか悔しそうな表情を浮かべた。ティファの言っていることが真実だとしたら、コールドの方が一枚上手だということになる。
「…確かに、今のマリーちゃんは…普通の少女。風見鶏の気配は感じ取れないわ…」
「そうだな…本当に、消えちまったってことか…」
マリーは、無表情でお茶を啜っている。
クレイアは視線を前に戻すと
「マリーちゃんの風見鶏とグルー君の風見鶏は、恐らくあなたのお父さんの代で二つに分離していたんだわ。だとすると、マリーちゃんの風見鶏が消えたことで…少しはグルー君の風見鶏にも影響を及ぼしていると思うけれど」
「…いや、何の変わりもねぇよ…俺のほうは」
「…そう」
クレイアは眉を顰めたまま、ふぅ…と息を吐いた。
「…そろそろ聞かせてもらいたいんだが」
「…?」
「ティファ、…お前は何者なんだ」
びくり、ティファの肩が揺れる。ティファは、俯いたまま…暫く言葉を発しなかった。
「…風見鶏が見えていた、ということは…少なくとも、普通の人間ではないことぐらいはわかる。…お前は一体…」
ティファが顔を上げた…その時、だった。
「…!?誰か来たわ…!!」
「!?」
小さな弟達が、ティファの影に隠れる。
「チッ…クレイア、ティファとチビ達を頼む」
それだけ言うと、グルーは扉を開け…ばたん、と後ろ手で閉めた。
妙に嫌な風が…グルーの頬を掠めた。
「…随分勘が良くなったじゃねぇか、グルー」
「ああ、お蔭様でな…」
目の前に浮いている人物を、グルーはキッと睨み付けた。
その姿は…紛れも無く、コールドであった。
グルーは小型の鞄の中からペンサイズの細い棒を取り出す。ペンにしては少々太い。
一振りすると、それはたちまち長刀に変わった。
「…いつもと武器が違うじゃねぇか、慣れてないもので俺が倒せると思ったか?」
コールドはクククと口元で笑んだ。
グルーもほんの僅か、口角を上げると
「…悪ィが、こっちが本業なんでな」
長刀を構えると、グルーは言った。
「…勝負だ、コールド」
「俺にその風見鶏を寄越してくれれば、誰も殺さねぇぜ?」
「信じられるか、大体…それが本当でも、お前にだけはやらねぇよ!」
タン、グルーは地を蹴った。
それが、戦闘開始――の、合図だった。
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