「…お前は…」
グルーは、眉を顰めて呟く。
「危険種族、って知ってますか?グルーさん」
いつもの調子で、ティファはグルーに問いかける。
「あ、…ああ…噂だけだが、政府が裏で排除を続けている種族…」
「正解です。…私は、その一級種族――…”SALE(サーレ)”の種族の一人なんですよ」
ティファの笑みは、苦笑に変わった。
「サーレの種族だと…!?絶滅したと言われている、あの…」
「史実では絶滅したことになってます。…現に私のお父さんとお母さんは、政府の人たちに殺されちゃいました。けど、私は弟達を連れて…遠い親戚の、サーレの生き残りのおばさんに此処を貸してもらっているんです」
そして今ティファの表情に浮いているのは――悲しい笑み、だった。
「私は…普通の生活がしたかったんです。ずっと逃げてばっかり、いつも何かに怯えてる暮らしとかじゃなくて――平和に満ちた、普通の暮らしがしてみたかったんです。だから、髪の毛も目の色も、幻影で変えてました」
グルーは、言葉が出てこなかった。
 いつも自分に対して、屈託の無い笑みで笑いかけてきたティファ。
 いつも周囲の人物を、その笑みで和ませてきたティファ。
 とても、普通の少女と思って疑わなかった――ティファ。

「でも、…コールドって人には、バレてました。きっと、他の人も…わかってる人はわかってるんだと思います。…やっぱ、私には普通の女の子としての暮らしは…出来ないんですよ」
と、悲しそうに笑って括った。
「…ティファ」
「私は、魔法が使えます。…最初、グルーさんの怪我を治したのは――私だって言ったら、どうしますか?」
気を取り直したように、ティファはそう言って悪戯っぽく笑いかけてみせた。
 が、やはり…苦笑に近いものであった。
「…私があなたに近づいたのは、…私に近いものを感じたから、と言ったら…あなたはどうしますか?」

 返答に困っていた…その刹那。
 もう、砂埃も収まってきたその先に見えたものは――

「…っ!?ティファっ…!!」
「…!?」
「食らえっ…!!」
コールドが、小刀を振りかざしているのが見えた。もうコールドの姿はぼろぼろで、魔力も尽きてしまっている様子であった。

「ぁあっ…!!」
その小刀は、ティファの肩を捕らえた。
「ティファ…!?…コールド…」
目の前で崩れ落ちていくティファを、支えると…グルーの視線は、真っ直ぐにコールドを捕らえていた。
 肩から血を流し、紅く染まったティファをそっと地に寝かせると――

「…!!!!!」
思い切り、長刀を振るってコールドに襲い掛かっていった。
 もはや言葉も無く――己を見失ったグルーは、ただ長刀を振るっていた。
 コールドは魔力を使い果たしてしまったために――小刀で交わしながらも、引いていくしか術は無いようであった。

 ふと、コールドが躓き――そこに、グルーが長刀を振り下ろそうとした、その瞬間…

「駄目ー―――――っ!!!!!!!!!!」
ひとつの声が、響き渡った…
「ティファ…?」
「…駄目…です、グルーさん…殺しちゃ、…駄目…」
途切れ途切れに、そう言った。
 コールドはその隙を見て、グルーに切りつけようとした――その刹那、であった。

「…!?」
「風見鶏…!?」
グルーの中から、風見鶏が現れたのである。発している光は、いつもよりも強いものであった。
 風見鶏はコールドの前へと移動すると、その胸元へとドン、と貼りつくように入っていった。
「!?」
「ぐぁ…っ!!」
シュゥ…と、その胸へと風見鶏は焼きついたように…刻印となって残った。
「…何だ…?」
「刻印…ね」
ふと、真上から耳慣れた声が響く。
「…っ、クレイアさん、あの子達は…っ」
「もう大丈夫よ、ティファさん…今は眠ってるわ。それに、コールドは、もう誰にも危害を加えることは出来ない筈よ」
「何だと…っ!!」
クレイアはとん、と地面に降り立つと…コールドの前にしゃがみ込み、人の悪い笑みを浮かべてこう言った。

「その刻印は恐らく、もう二度と魔法を封じ込め…使えないようにしてしまう刻印よ。リリスらしいわ…リリスは、平和を司る者。即ち、魔法の力を悪い方向へと使ったあなたに…風見鶏の力を通じて、刻印を彫った、ということよ」
「…どういうことだ、クレイア」
「まだわからないの?マリーさんの風見鶏もそう、…風見鶏は、本当に大切な人たちを守りたいと願った時のみ…その力を発することが出来る。それが、どんな形で現れるかは…使い手次第、と言うことよ」
くす、と笑えばクレイアは立ち上がった。
「もうこの青年はただの青年。…いえ、悪魔との契約が残っている以上…魂は、差し出さなければいけなくなるかもしれないけれど」
そう言って、クレイアは…くすくす、と嫌な微笑を残した。

「…そうだ、ティファ…!!」
グルーは、ティファのほうへと駆け寄る。
「私は……大丈夫です」
何処か弱弱しい笑みをグルーへと向ける。肩の傷を調べるが、幸い見た目ほど酷くは無さそうであった。
「…それじゃあ、私は先に失礼するわ。彼の処理は、私に任せてもらえる?」
そう言って、クレイアはコールドを指差した。
「どうするんですか…?」
ティファが問いかけると、クレイアは小さく笑った。
「安心して。悪いようにはしないわ。…ただ、ちょっと遠い異国の地へと飛ばさせてもらうだけ」
と、言うと…クレイアは、コールドを浮かせて自分の横まで運んだ。

「…ちょっと待て、コイツと、…話させてくれないか?」
そう言い出したのは…グルーだった。






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