「…何だ?俺は話すことなんざ何もねぇよ」
「…ところがこっちにはあるんでな」
2人がいるのは、時空を隔てた場所。特別にクレイアが用意してくれたものであった。
「何だ?あの小娘を傷つけた恨みの言葉でもかけてくつもりか?」
と、クク…と笑いながらコールドは言う。
「いや、…もう二度と会うことも無いだろうからな。一言礼を言っておこうと思って、話させてもらうことにした」
「…何だと?」
コールドは怪訝そうな顔をする。グルーは構わず話し続けた。
「お前のお陰、と言ったら妙な感じがするが…俺のところに変な追っ手がかかってくることも無くなった」
「…」
「この一年間、妙に平和な暮らしが出来たのもそのお陰だ。そして、風見鶏が消えたのも…お前のお陰だ。礼を言う」
「嫌味かよ」
「そうかもな」
あっさり返すと、コールドは逆に笑い始めた。
「ハーッハッハッハ…お前、大分性格変わってないか?」
「前からこうだ」
「絶対違ぇ」
と、切り返すとコールドはさて、と立ち上がった。
「話はそれだけか?」
「…ああ」
「…じゃ、戻してもらうぞ」
2人が両目を閉じると…そこは、元いた場所だった。


「…話は済んだかしら?」
「ああ」
「…じゃあ、連れて行くわね」
「グルー」
「何だ?」
「…俺の方も、お前の相手で結構楽しめたぜ。ありがとな」
と、恐らくそれはグルーにしか聞こえていなかっただろう。それぐらいの音量で、言った。
 グルーが何か返そうとした頃には――2人の影は、綺麗さっぱり消えていた。
 2人だけが、その場に残る。ティファの肩には、恐らく2人が離している間にクレイアが施したものであろう。軽い治癒魔法が効いていた。

「…」
「…」
気まずい空気が流れる。
「…グルーさん」
「何だ…?」
グルーは、座り込んでいるティファの視線に合わせてしゃがみ込んだ。
「…ありがとうございます」
「…?」
「私を、守ってくれようとしたんですよね?」
「…」
頷こうとも思ったが、最終的な決着はあくまで風見鶏がつけたものであって。
 どうも頷くのは憚られた。
「違うんですか?」
「…最終的に、勝ったのは俺じゃねぇからな」
「いいえ、勝ったのはグルーさんですよ」
ティファはもう一度、ありがとうございます、と言った。
 再び、沈黙が訪れる。

「…私、これからどうしようかな」
と、ぼんやりティファが呟いた。
 それは、独り言のようで…グルーの耳に、やっと入るぐらいの大きさだった。
「…何…?」
「私、…此処を離れようかな、って思うんです」
「何だと…?」
「やっぱり、一級危険種族の私が此処にいたら…これから絶対、皆さんに迷惑かけることになりますし…」
へへ、と何処か寂しそうに笑うと
「…私は、何年かですけど。普通の暮らしが出来て…もう充分ですから」
と、グルーに笑いかけた。
 グルーは、暫くは目を背け何も言わなかったが…ふと、思い立ったようにティファを胸に抱きしめた。
「…行くな」
「え…」
「どこにも行くな。お前はそのままで良い。今のままで良い。お前は…少し魔法が使えるだけで、普通の人間だ」
「グルーさん…」
「…お前が行ったら行ったで、迷惑する人間が此処に一人いる…」
「でも私は…っ」
「俺だけじゃない、クレイアだって、メリッサだってリリーメだって、シルドだってファレイだって、お前を迷惑がる奴なんか一人もいねぇよ」
「っ…」
ティファは、僅かに言葉に詰まった。グルーは、僅かに声のトーンを落とす。
「…お前はずっと、我慢してきたんだろうが…一人で全部背負い込んで、全部自分の中に押し込めて…辛さだって怖さだって、全部一人で背負ってきたんだろうが」
「…」
グルーは、暫し言葉に迷っている様子であったが…こう続けた。

「こういうのは、…何て言って良いかわからねぇが…これからは、俺が半分背負ってやる。半分ぐらい分けろ、俺に」
「…え…」
「風見鶏の問題も無くなった。俺を追うものも、俺が背負うものも何も無い…だったら、俺がお前の問題…半分背負う」
「何を…」
「…文句あるか?」
ティファは、暫し黙っていたが…グルーの胸の中で小さくあはは、と笑い始めた。
 グルーは、一気に恥ずかしくなった様子で顔を背けるとティファを離した。

「何笑ってんだ…っ」
「…だって…っ、…サーレの種族とか聞いたら、普通は引いてかかわらないようにするのが普通なのに…っ」
あはは、とそれでも無邪気に笑い続けるティファ。決まりがわるそうにそっぽを向いたままのグルーの前まで行くと、今度は自分からその胸に飛び込んでいった。
「な…!?」
「…へへ、…約束ですよ。これからは…全部、…半分こですから、ね」
ティファの頬に、一筋の涙が零れていた。






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