「…お邪魔しまーす」
「どうぞ…狭いけど、適当に座っててね」
リリーメはミリーの部屋へと足を踏み入れる。
 寮の部屋というのは本来寮生以外の生徒が泊まることは寮則で禁じられていて、本来寮生以外が寮に立ち入る事も寮母はよく思っていない。
 その上時間は既に門限に近いため、リリーメは息を潜めてミリーの部屋に立ち入った。
 リリーメとミリーは付き合いが長く仲も良いが、寮則が厳しいこともありミリーの部屋にあまり立ち入った事は無かった。

 綺麗に整頓された室内、本棚には魔法書籍や絵本、何かの楽譜に至るまで沢山の本がせわしなく詰まっている。
 ぬいぐるみや人形も飾っており、趣味で育てている小さな植物が部屋の隅に鎮座していた。
 決して物が少ない部屋ではないのだが、きっちりと整理整頓されている為か部屋自体の狭さは感じさせなかった。

「夕ご飯とかどうしてるの?食堂?」
「いつもはそうなんだけど…今日は自炊するね」
「え、いいよー私のことは気にしなくて。食堂行っといでよ」
「い…いいから、リリーメは座ってて」
部屋に備え付けてある小さなキッチンで、ミリーはエプロンを付けると料理を始めた。
 普段はおどおどとしていて内気なミリーだけれども、男性への恐怖感さえ無くなれば本来はかなり頼りになる少女なのである。
 そんなことをリリーメは今更再確認しながらベッドに腰掛けると、ミリーの後姿を見遣った。

「ちょっと時間掛かるから…待ってて」
「うん、ごめんねー…迷惑かけちゃって」
「いいよ、気にしないで。料理するのは好きだから」
ミリーは一度振り向くとにこりと微笑む。リリーメは肩を竦めるとひとまず鞄の中の雑誌を広げる事にした。

 そういえば、今日は誰にも姉への伝達を頼まずに外泊を決め込んでしまった。
 不意にリリーメの脳裏にそんなことが過ぎる。
(でも、今は姉貴――私のことなんて考えてる余裕無いもんね)
だから大丈夫、なんて心のどこかで自分に言い聞かせるようにして、リリーメは時間の経過を待った。

「…お待たせ」
一時間程経った後、ミリーはミニテーブルに軽い炒め物と米の入った皿を並べた。
「あ、ごめんねー…ありがとう」
リリーメは申し訳無さそうに目じりを下げると、ミリーは首を振る。
「気にしないで、って。…じゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
ミリーとリリーメは二人でテーブルを囲うように座る。
 ミリーの料理は簡素なものだけれど、家庭的でリリーメにはとても暖かく感じた。

「…ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまでした」
ミリーは笑って返すと、食器を回収する。
「あー…っと、洗い物やるよー」
「いいよ、リリーメは座ってて…?」
「でも、何かさっきからやってもらいっぱなしだし…」
そう言うリリーメをミリーは手でそっと制す。

「リリーメは今日はお客さんなのよ、…その、座ってて?」
「あー…うん、ごめんね」
ミリーはこういうところは頑として譲らない。
 リリーメは大人しく座っていることにした。


「…リリーメ」
「ん…?」
「何かあった…?」
「んー…」
ミリーは洗い物をしながら問いかける。リリーメが言葉尻を濁したのを聞くと
「あ…ごめんね、無理に聞いてるわけじゃなくて…」
と、慌てて取り繕った。
「ミリーはさぁ」
「え…」
「私の家のこと、ちょっと知ってたよね」
リリーメはベッドに寄りかかると、体育座りをして膝を抱えて呟いた。
 ミリーは小さくうん、と頷く。

「…メリッサも、最初は同学年だったから…」
「そう、ちょっとだけ一緒に学校通ったんだよね」
「うん…メリッサとリリーメとは、中等部から一緒だったし…」
ミリーは呟くと、洗い物を終えてリリーメの前へとそっと腰掛けた。
 ふと、リリーメは思い出した。
 思えば心が折れてしまいそうな時、自分は目の前の少女に頼りきりだった。
 その都度、色々なことを喋っていたと思う。
 それを思えば、ミリーは自分の家の事情はある程度知っていても不思議は無かった。

「…メリッサのお母さん、って言う人がさぁ…昨日家に来たの」
「え…」
「勿論、私とは何の繋がりも無い人なんだけど…本物っぽいんだよね、髪の色も目の色も…メリッサと一緒だった」
「それ…って」
ミリーは言葉をなくし、リリーメの言葉に聞き入る。

「…メリッサを引き取りたいんだって」
ミリーは言葉が出なかった。


『…あたしとメリッサ、双子って程顔似てないでしょう?』
それは、数年前にリリーメに聞かされた話だった。

『でもそれは…二卵性の双子だから、って前に…』
『一応そういうことにしてる。…でも、本当はね…血、繋がってないんだ』
『え…』
『いや…繋がってる、かな。半分だけ』


 ミリーの中に、数年前のそのやり取りが蘇った。

 腹違いの姉妹。
 メリッサとリリーメは世間的にはそれに類されるのだそうだ。
 生まれた日にちが近いから、どちらかの日付を無理やり合わせたそうだけれども。
 それは聞かされていない。恐らくメリッサがリリーメの方に合わせたのだと。
 そうリリーメは語っていた。

「メリッサのお母さんは生きてるって、私も知ってた。でも、どこにいるとか…メリッサを迎えに来るとか、全然そんなこと考えて無くて」
リリーメの声は沈む。

「その人…セアラさんって言うんだけど、朝起きて…メリッサはセアラさんのこと「お母さん」って呼ぶの。まるで本物の親子みたいに…いや、本物の親子なんだけど、何かそれ見たら、たまらなくなっちゃって」
そこまで聞くと、ミリーはリリーメを抱きしめた。

「…ごめんね、事情聞いたりして」
「いい、…いいよ、…私ね、セアラさんから言われたんだ…「あなたも一緒に」って」
「…」
「でも、…嫌なの。…それは、嫌なの。だから私、即答しちゃったんだ。「嫌です、絶対に嫌だ」…って」
リリーメはミリーの胸に自分の顔を埋める。

「…仕方ないよ、急な事だもん」
ミリーはメリッサの頭を撫ぜる。
「少し、休んで…?夕べ、…その、殆ど眠れてないんでしょ…?」
ミリーはメリッサをベッドへと誘導する。

「…リリーメ」
「何…?」
「その…やっぱり、…それを決めるのはお互い自身だから……リリーメは、…自分の思うこと…貫いて、良いと思う…よ」
ミリーがそう言ったのを聞くと、リリーメは一度弱弱しく頷いた。
「…ごめん、ありがとう…ミリー」

 ベッドの中で、リリーメは小さく呟く。
「…ミリー」
「なぁに…?」
「メリッサにとっては…セアラさんについていったほうが良いに決まってるんだよ、お母さんのところで暮らせるんだもん。私の面倒見なくて済むし、家の土地だって私が貰っちゃえばメリッサは問題ないんだし」
「……」
ミリーは、言葉が出なかった。



* *


 二人はミリーの部屋で朝を迎えた。
 リリーメは何とかして寮母の目を掻い潜ろうとしたが、寮の管理は思った以上に厳しかったようで。
 二人は朝から揃って説教を受けてしまったのであった。

 そして、リリーメはミリーと部屋の分かれる各々の選択授業の時間になった時に――学校を飛び出した。


「…はぁ」
リリーメは街をとぼとぼと歩きながら溜め息を吐く。
 授業に身が入らないと真昼間に一人で抜け出してきたところで、考えてみたら自分にはする事が無いのだ。
 時間は既に日も高い丁度お昼頃。昼食は何とか学生食堂で食べたものの、いつも持たせてくれるメリッサの弁当が何となく恋しかった。

 ふと、街最古のアパートとして名高い――フィッシュ館の横へと到達した。
 此処には知り合いが何人かいる。ひょっとしたら誰かいるのではないか。
 不意に、こんなとき相手にしてくれそうな一人の姿が頭に思い浮かぶ。

 その人物の部屋の前に立つと、とんとんとん、とノックした。
 中から返事は無い。留守か、とリリーメは溜め息を吐くと扉の違和感に気付いた。

 あれ。
 そこには、表札がかかっていなかった。
 以前は、木で無造作に名前だけが書かれた表札が掛かっていたはずであるのに。

 リリーメは違和感を覚えながらも、踵を返してその場を後にした。
 再び街道を歩く。

「――あ」
ふと、リリーメの足が止まる。前方から歩いてくるのは、緋色の髪。
 ――メリッサだった。
 が、一人ではない。隣には、全く同じ髪と目をした女性。紛れもなくセアラの姿であった。
 女性は笑いながら、メリッサは溜め息をつきながらも並んで歩いている。

 どくん、と心臓が跳ねる。思わず、建物の影に身を隠した。
 鼓動が止まらない。早く通り過ぎろ、通り過ぎてくれとひたすらに願う。
 二人は建物の影のリリーメに気付くことなく、通り過ぎていった。

「――っ…」
リリーメは顔を両手で覆うと、その場にしゃがみ込んだのであった。
 立ち上がることが出来ない。何ともいえない気持ちになると、リリーメは重い溜め息を吐いた。

「…何してンだ、お前」
不意に、上から声が降ってくる。ふ、と反射的に顔を上げた。
 着古された黒いパンツ、茶色いシャツ。
 飾りっけの無い、ただ邪魔にならないようにと首に僅かに掛からない長さでざくざくと切られた茶髪。

「…グルー、さん?」
リリーメは思わず間抜けた声で、相手の名前を呼んだ。

「学校の時間じゃねぇのか、今」
「あ…は、サボっちゃった」
「…、今すぐ戻れ」
容赦ない言葉にリリーメはむくれると、うるさいなぁ、と呟いて立ち上がる。
 スカートに付いた砂を払いながら吐き捨てる。
「グルーさんには関係ないでしょ」
「…ああ、まぁな」
そのまま歩き去ろうと背を向けたところで聞こえた声が、妙に胸に突き刺さった気がした。

「…グルーさん」
「何だ…?」
「私、甘いものが食べたい」
「…は…?」
リリーメは振り向くと、グルーの手を思い切り引いた。

「ルネサンスのパフェ奢ってよ!美味しいんだよねぇ、私最近お金なくってさぁ」
「お前、…俺の言うことを聞いてなかっ…」
「それ食べたら、…学校戻るから」
と、グルーの手を引いたまま裏路地を出る。
 すると、すっとリリーメの足が止まった。

 目の前にいたのは、紛れも無くメリッサ。
 横には、セアラの姿もあった。

「…リリーメ、何をしているの?」
「…」
「夕べは帰ってこなくて、あなた何を考えてるのよ…今、学校の時間じゃ――」
「姉貴には関係無いでしょう!」
リリーメは思わず声を荒げた。
「リリーメさん、…関係ないなんて言っちゃ駄目よ、メリッサ、夕べは心配して――」
「セアラさん、…あなたにも、関係ない。私がどうしようが、…あなたにはもっと関係ないでしょう!」
すると、リリーメはグルーの手を離しそのまま走り去っていった。

「リリーメ!」
「………」
グルーは完全にその場に取り残されたように立ち竦んでいた。
 リリーメの姿は喧騒に紛れて、見えない。
「…グルー君、あなたは…」
「俺はたまたま其処でリリーメを捕まえただけだ」
「…そう、…ごめんなさい、変なところを見せて」
メリッサは深く頭を下げた。

「俺は、…構わない」
と、隣に立つ女性――セアラに視線を向ける。
「メリッサ、彼はお友達?」
「…、ええ」
一拍の間の後、メリッサは頷いた。

「初めまして、メリッサがいつもお世話になっています。メリッサの母で、セアラ・ソフィと申します」
セアラは柔らかく笑むと、グルーは訝しげに「母…?」と小さく呟いた。
「色々あって、今ここにいるの」
メリッサからそれを聞くと、グルーは頷く。それ以上の詮索はしないことにした。
「…グルー・ブレイアンドだ。此方こそ娘さんにはいつも世話になってる。…メリッサ、…リリーメは…」
「私が追いかけても、…あの子は今、私の話を聞く気はないみたいね」
メリッサは、いつもらしからぬ弱気な表情でグルーを見上げる。その肩を、セアラが抱いていた。
「グルー君、頼みがあるの」
「…わかってる」
グルーは溜め息混じりに呟くと、メリッサの頭を一度くしゃりと撫ぜた。

「俺が追う、…出来る限り家か学校に戻すか、せめて何処か知り合いのところにいるようにしておく。出来るだけ報告に行くが――夜になっても来なければ、俺の家に来てくれ」
「わかったわ…お願い」
それを聞くと、グルーは喧騒を掻き分けるようにリリーメを追った。

「…彼のこと、頼りにしているのね」
「ええ、…少し常識を逸脱しているけれど、彼はとても頼りになる人だから」

(それにしても、いつからあんなに丸くなったのかしら)
メリッサはその後姿を見送ると、僅かに口角を持ち上げた。


* *


 グルーは、不意にメリッサのことを思い出していた。
 別にメリッサやリリーメを特別視しているわけではない。

 しかし、以前から二人の関係には何処か疑問を覚えていた。
 メリッサは一人で働き、リリーメは一人で学校に通う。
 それでいてメリッサは独学で勉強をし、リリーメはバイトをしながら学生生活を満喫している。
 同い年の姉妹であるにも関わらずその差に、グルーは疑問を抱かずにいられなかった。

 一人働くメリッサに対し、何処かリリーメと同じように厳しく接する事が出来ないことも――其処からきているのであった。

「…馬鹿が、逃げ足速ぇんだよ」
「グルーさん、…何で此処が?」
リリーメはバイト先である雑貨屋の裏手にいた。従業員専用の入り口があるだけの裏路地で、一般人は殆ど通らない。
「勘だ、…ったく…来い」
グルーはリリーメの腕を掴むと、半ば無理やりその手を引く。
「痛っ!痛いってばグルーさんっ!」
「…」
「ちょっ、…離してよぉっ」
グルーは離さない。
 裏路地を出、そのまま少し歩いて行き着いた先は――

「…ルネサンス?」
リリーメは間の抜けた声で呟いた。グルーはレオラに案内されるままに腰掛ける。
「…パフェ一つとコーヒー一つ」
「はーい、了解。何々、今日はデートなの?」
「ンな訳があるか」
レオラは笑いながら厨房に注文を通す。コーヒーとパフェにセットの紅茶は直ぐに出てきた。

「…グルーさん…」
「…」
目の前に座るグルーは黙りこくっている。リリーメもそのまま小さく俯いた。

「お待たせいたしました」
パフェが運ばれてくると、リリーメは軽く手を合わせて「いただきます」と呟く。

「…手を合わせるの、癖か?」
「え?…うん、お母さんがよく言ってたんだ。作ってくれた人と、犠牲なってくれた植物や生き物へ対しての礼儀なんだって」
そう言うと、リリーメはスプーンを差し入れ口に運ぶ。
「美味しいーっ、やっぱルネサンスのパフェ絶品っ」
「…」
「グルーさんも一口食べる?」
グルーはいい、と軽く首を振ると、そっか、とリリーメは二口三口とパフェを食べ進めた。

「…ごめんね、さっきは」
「別に…」
「メリッサに話、聞いた?」
「いや…隣の女が、母だって言う以外は」
リリーメはそれを聞くと、そっか…と小さく呟く。

「メリッサも言ってた通り、あれはメリッサのお母さん」
「…」
「私のお母さんは3年前で死んじゃった、ただ一人。…私たち、血繋がってないんだ、半分しか」
グルーはリリーメが語るのを見遣る。平然を装っているのが、一目見てわかった。

「メリッサのお母さんはね、私のお父さんの愛人だったの。…私は5つまで、メリッサの存在すら知らなかった」
「…」
「ある日から、メリッサがうちに住むようになって――私たちは、双子として育てられたの」
リリーメは独白のように語る。何処か、声が上擦っていた。

「何でメリッサがうちに住むようになったのかは知らない――けど、私はずっと思ってた。メリッサは捨てられたんだって」
「…」
グルーは、コーヒーを啜る。

「…でも、あの人…セアラ、って人は…今更、メリッサを引き取るって言い出したの」
「…」
「私のことも面倒見る、って言ってるんだ。…でも」
リリーメは言葉を切る。せわしなく動いていたスプーンが、さく、とフレークを刺したまま止まった。

「…私は、そんなの嫌だ。メリッサがあの人をお母さん、って呼ぶことにも耐えられないし、他人をお母さんって呼んで、毎日生活するなんて――」
はっきりとした意思のある声であった。

「…でも」
「…」
「メリッサには、その方がいいんだよ。…だってメリッサ、学校行きたいに決まってるもん。私の世話しなくて済むんだよ、自分の好きな事が出来るんだよ」
声が震えていた。その目から、一筋の涙が伝う。

「…私が、全てを負えば済む話なのかもしれない…けど、私には今…メリッサしかいない」
「…」
「お父さんやお母さんが残してくれた土地…財産であり遺品を、守ることもできない。今までメリッサが守り続けてきたのに、…っ」
その目を、大粒の涙が覆った。

「…でも」
グルーが、初めて口を開く。
「…?」
「メリッサは、…ずっと、血の繋がってない母親と…生活を共にしてきたんだろ」
「…」
「お前が嫌だと言うのと同じ、メリッサも最初は嫌だっただろう…母でない人間を母と呼び、慕い、ついていくこと…」
リリーメはごし、と袖で涙を拭う。

「…お前はどうしたいんだ?」
「…」
「メリッサと離れる事を望むか、メリッサと共に生活する事を望むか――」
リリーメは、その言葉を黙りこくったまま聞く。

「いずれにせよ、今までのように…とはいかねぇんじゃねぇのか」
「………」
リリーメは再びパフェに手をつけると、うん、と一度だけ頷いた。


「でも」
「…」
「私はまだ、姉貴と離れたくないんだ」
リリーメは苦笑すると、ご馳走様、とパフェを食べきった。
「なら…」
「ん?」
「尚更、メリッサと話し合う必要があるんじゃねぇか?」
リリーメはそれを聞くと、そうだね、と小さく呟いた。

「さて、…学校…はそろそろ終わっちゃってるかな…」
店内の時計に目をやると、リリーメは苦笑する。
「家に帰るか?」
「…ん?んー…」
いまいち煮え切らない返事を返すと、グルーは溜め息を吐く。

「…家に帰るか、それとも――…」
「グルーさんっ」
「は…?」
リリーメは、がばっと顔を上げた。

「今日一泊だけで良いから、グルーさんの家に泊めてくれない!?」
「断る」
「酷っ、だって、…私にだって考える時間欲しいし、…そのー…」
「だからといって男の家に行く事を、メリッサが良く思うわけ無いだろ」
グルーは溜め息混じりに返すと、リリーメは一変して笑う。
「それは大丈夫!姉貴、グルーさんのことは信頼してるし――」
「だから、…その信頼を損ねない為にもだな――」
「さて、フィッシュ館へれっつごー」
リリーメは意気揚々に立ち上がった。グルーは渋々、レオラに会計を済ませるとリリーメについていった。

 今の状態のリリーメを一人にしたところで、何処に行くか知れたものではない。
 それを思うと、後でこっそりメリッサにリリーメの所在を告げておいた方が――自分の保身の為になると思ったのであった。





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