* *


 その後結局、ティファとグルーの生活は殆ど変わることは無かった。
 ただ変わったことといえば、グルーはほぼ毎日、アルバイトがある日もティファの元を訪れるようになっていた。
 そして夕飯をともにし、グルーは一人帰宅する。それが生活スタイルとなっていた。
 ティファの家に同居することも案に上がったのだが、ティファの家は伯母の持ち家となっているため勝手なことは出来ないと判断したためであった。
 ティファと同じくサーレの種族である伯母が、ティファとグルーの交際を認めてくれるとも限らないからである。

 弟たちも、グルーによく懐いていたためその生活に何の問題もなかった。
 しかしグルーには一つ、頭を悩ませることがあった。

「…じゃあ、俺は帰る。居座っちまって悪かったな」
「いえ、その、…グルーさん」
「何だ…?」
子供たちが寝静まり、グルーが帰ろうとすると、ティファはそっとグルーの服の裾を掴み呼び止める。

「えーと、…その」
「…何だ」
一瞬言葉に詰まると、そっと上目遣いにグルーを見上げる。

「もう少し、一緒にいたい…な、なんて」
「…」
顔を紅くし、どんどん言葉が小さくなっていくティファ。
 グルーは思わず顔を片手で覆い大きく息を吐く。

「…お前な」
「あ…ごめんなさい、無理言っちゃって」
グルーが頭を悩ます要因はこれなのであった。
 同じ屋根の下で、こうも無防備に引き止められてしまうとなんとも断り辛いのである。
 勿論一緒にいてやりたいのはやまやまなのである。が、一つ屋根の下で一晩自分の理性を100%自制できるかどうかを考えるとそれは非常に辛いことであった。

 ティファが裾を掴んでいた手を離すと、グルーはその頭を軽くぽんぽん、と撫でる。

「…戸締り、気をつけろよ」
「え、あ…はい」
しゅんとしているのが見えていたが、あえて見ない振りで背を向けた。
 扉に手をかけ、立ち止まる。

「…ティファ」
「はいっ?」
「明日も来る。バイトも無くて一日休みだ…一日中、お前と居てやれる。それまで待っててくれ」
するとティファの顔がぱあと明るくなったのが目で見なくともわかるようであった。

「…はいっ、ありがとうございます」
グルーは横顔で振り返りそっと口角を持ち上げると、そのまま軽く片手を挙げてティファの家を出た。


「…危なかった」
口を突いて出た自分らしからぬ台詞に、思わず口を塞ぎ息を吐いては帰路への道を踏み出す。

 グルーは今まで感じたことの無い充足感に満たされていくのを感じていた。




「…機は熟した、な」
また別の場所で、何かが動き始めているということは――
 そして、その何かが二人の運命を大きく変えることになろうとは。

 その時二人は、知る由もなかった。





















-Fin-


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